column 18

編集部ひそひそ話  −感動−
雄弁な人は好きではない。
無愛想で、その場の雰囲気をぶちこわすように無口を貫く人も苦手だが、よどみなくしゃべられると引いてしまう。用意された、無感情な言葉のように思えてしまうのだ。寡黙な人の言葉のほうが、真実に近い気がして心に残る。Y君がそうだった。
以前の職場で、私には何人かのアシスタントがいた。Y君はその中の一人だった。忙しく、カリカリしがちな会社だったので、みんな息抜きにしゃべりながら仕事をしたものだが、Y君はそんな輪の中には決して入らず、ただ黙々と働いていた。もともと人見知りというY君は、人と話そうとすると逆に気を使ってしまい、リラックスできないそうだ。
「Y君の声、聞いたことないかも。」
と、言う人がいたくらい、もの静かな子だった。そんなY君に、忘れられない感動をいただいた。私が会社を辞める時、最終出勤日のことだ。
その日、フロアのみんなから花束や手紙をいただいた。BGMまで流しながらの贈呈式?が盛り上がり最高潮に達した時、上司が私への送辞をY君に振った。みんなの視線がY君に集まる。そして、少しの沈黙のあとに、Y君が真っ赤になりながら言ってくれた。
「・・・本当に、ありがとうございました。いろいろ教えていただいて・・・。」
言葉に詰まりながら、ただそれだけ。でも、ゆっくりとつぶやかれたその言葉とその時のY君の姿は、今も胸に残っている。嬉しくて、私は何も言えなかった。
はたして職場でどれくらいのことをやり遂げたのか、まったくわからない状況にいた私をすべて肯定してもらったような気がした。「感動」というお題をもらって、いの一番に思い出したエピソードだ。

ならもも

 最近、よく泣く。感動して泣いてしまうのである。
 ゆだんしていると、普段何気なく見ていることが多いテレビにもやられてしまう。感動しやすい体質なのか、たださみしいだけなのか。
 それはよくわからない。
 自分自身、特殊な状況に生きているからだ。その特殊な状況については次の機会に書くことにして、問題は何に感動したのかである。
 昨日はNHKの『プロジェクトX』にやられてしまった。『スバル360』の開発物語である。庶民でも乗れる車。家族でちょっとした旅行ができる車。『スバル360』はそんなコンセプトで開発された。
 小さなエンジン。当時の舗装されていない道路に対応するサスペンション。問題は山積みだった。
 そして、皮肉なことに開発スタッフたちは家族との時間を犠牲にし大変な努力によって、それを完成させた。結果として当時傾きかけていた会社を立て直す程の大ヒットになった。ここまではどこにでもあるサクセスストーリーだ。
 ここからがこの番組はすごかった。
 その後、開発責任者は自ら『スバル360』を購入し、その小さな車で家族旅行をするのである。ある日妻にこう言うのである。
「よし、この車で旅行に出かけよう」
 私はここで目頭が熱くなってしまった。
 一緒に見ていた彼女が私の顔を覗くようにして言った。
「もしかして、泣いている」
 私はそれには答えず泣きじゃくりながら、ごはんを食べるので精一杯だった。
 感動した。こんな風にごはんを食べたのは何年ぶりだろう。

渡辺

最近、いい映画を見ても、涙を流さなくなってしまった。鼻につんと来ることはあっても、なぜか我慢してしまう。あの名作映画「グリーンマイル」でも、さほどこみ上げてくるものはなかった。泣き上戸でしょ、とよくいわれるが、腹が立ったり、くやしいときはめちゃくちゃに泣くけれど、感動してっていうのはしばらくない。
昔はすぐ泣く子供だった。小・中学生の頃、たまに学校行事として映画の上映会があったが、たいていそういうのは感動系の映画で、見終わった後はボロボロ。上映後に電気がつくと、生徒たちは周りの友達の顔を見回す。泣いている子がいると「こいつ、泣いてるぞ〜」といわれ、からかわれる。私もそうだった。一生懸命我慢しているのに目の周りが赤くて、はれぼったいのだ。涙だけは落ちないようにしたいが、手を目のところへ持っていくと泣いていることがバレそうなので、さりげなく拭うのに苦労した。
今、映画やドラマで泣かなくなってしまったのは、そうした子供の頃の泣かない訓練の賜物(?)だと思う。感動しそうになると無意識に「泣くもんか」とバリアを張ってしまうようだ。不健康極まりない。
でも、泣くほどじゃなくても感銘は受けるし、ちょっとした感動なら常にある。最近では、誕生日に友人から花が届いて、かなり感激した。仕事や行動をほめられたときもジーンとくるし、私に会いたがっている人がいるとか、一緒にいて楽しいとかいわれると、泣きたいくらいに嬉しい。感動させようと狙って作られたフィクションよりも、身近でひとごとではないものに余計感動するのかもしれない。自己中だなあ。でもそれはそれで自分に正直だし、我ながら繊細なんじゃないかと思ったりしている。

みらい



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