コラム

column 24 「世界最後の桃源郷」その1
 シルクロードの風に吹かれ、パキスタンの北部までやってきた。

 パキスタンはイスラム圏に属している。
 ここでは女性はあまり人前で肌や体のラインを見せてはならない。女性が半袖と短パンで人前に出ることは決して許されないのだ。パキスタン女性は下半身まですっぽり隠れるクルタと呼ばれる民俗衣裳を身にまとい、さらにショールを巻いて首筋のうなじや顔を覆わなければならない。
 それは、旅行者の私たちでも同じである。どんなに暑くても長袖と長ズボンでなければならない。そうしないと、たくさんの人に囲まれて、人々の痛い視線を浴びることになる。それは、まさに人間動物園状態。

 いやぁ、ここまでの道のりは長かった。 
 パキスタンの北部フンザは「世界最後の桃源郷」と呼ばれている。旅人たちの間で密かに囁かれている噂によると、宮崎駿のアニメ「風の谷のナウシカ」はこのフンザが舞台だという。
 私はそれを自らの眼で確かめるため、わざわざパキスタンまでやってきた。
 パキスタンの首都イスラマバード(ラワールピンディー)から、ミニバスで750km、カラコルムハイウェイを約15時間北上。途中の町ギルギットでバスを乗り換えさらに3時間。そこに目的の町、フンザ(カリマバード)がある。
「運がよければきっと明日の夜には、フンザにいられるよ」
 ミニバスに一緒に乗り込んだパキスタン人が私に向かってこう言った。
 それがどういう意味なのか。後でわかったことだが、パキスタンのバスはよく故障し、乗っていた乗客は途中で下ろされる。そこから先は、次に来る車をヒッチハイクするか、バスが通るまで待たなければならない。しかし、次にいつバスが通るのか、それは誰にもわからない。日本では廃車扱いの日本の中古車ワゴンが、パキスタンでいうところのミニバス。リクライニングは壊れているし窓は開かない。運がいいのか悪いのか、私の乗り込んだそのミニバスはどうにか一昼夜走った末、やっと念願の目的地(フンザ)にたどり着いた。
 
 カラコルム山脈の名峰ラカポシ、ディラン、ウルタル。これらの7000m級の峰々に囲まれるように、フンザの中心地カリマバードがある。幾重もの段々畑が谷へと続く美しい農村風景、杏の樹、林檎の樹、葡萄の樹、ポプラ並木。それらの眺めはまさに、桃源郷として私の眼に映った。
 フンザの夜も素晴らしかった。
 夜になると停電してしまい、ロウソクの灯りはあれど、何もすることがないので外に出ることに。手を伸ばせば届きそうなくらいの満天の星空。ひたすら星を眺める。ずっと星を眺め続けていると、夜の闇に吸い込まれそうになる。なんとなく星空が近くに感じる。
 その時、なぜか体の中の緊張感がすべてとれたような気がした。(つづく)

柏崎招子(フリーライター)

編集部ひそひそ話  −風景−
偶然に助けられて、素晴らしい風景に出会うことがある。台風が過ぎ去った筑波山でみた風景がそうだった。台風が過ぎた朝、頂上にたどり着くと、富士山の下に広がる関東平野を一望することができた。神の視点という言葉にふさわしい風景だった。新宿の高層ビルさえひとつひとつ見ることができた。あの風景にもう一度出会いたい。
渡辺


 小さいときから、都会の夜景が好きだった。そびえる高層ビルからもれる灯り。車のバックライト。色とりどりのネオン。そんな無数の光があいまって、眠らない街を作っている。星は見えないし、地球には優しくない。でも、田舎育ちの私には心ときめく光景だった。今でも東京のイルミネーションは、いくら眺めていても飽きない風景のひとつである。
みらい

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