コラム

column 33 「大宮の光」
 バブル景気の煽りで国分寺の家が立ち退きになったのは、湾岸戦争が勃発した頃だった。アメリカの爆弾在庫一掃セール&最新兵器見本市。よくもこれだけ人殺しの技術を開発し続けているもんだ。ベトナム戦争を反省する映画が数多く生まれた時はアメリカの良識ってのを感じたのになあ。
 けっきょくアメリカが反省したのは戦争をしたことじゃなくて、戦争に負けたことだったんだな。日本で憲法改正を叫ぶ男たちの顔も同類に見えます。
 さて今度はどこへ住もうか。海のそばは、と金沢八景や逗子を見た。東京下町は、と葛飾柴又を見た。どこも家賃が高いなあ、国分寺の家ほど安くて住みよい家なんかないよなあ、と嘆いている時、ショートショート仲間が住む大宮に行ってみて、喜んだ。断然安い。バブルの波は浦和あたりで止まったらしいのだ。それに初詣での人出で有名な氷川神社から連なる広大な大宮公園が気に入った。
 不動産屋に行くと、なんと緑豊かなその公園の中に貸家があるという。一、二階を使うテラスハウスで、よ、4万8千円だとぉ。――と飛びついた人はぼくだけらしい。2年も空家だったと言うから。駅から徒歩25分だし、家は古い。よく見ると二階が傾いている。裏は公営テニスコートで騒がしい。
 でもぼくは通勤するわけじゃない。マンションより古い家がいい。平衡感覚が鈍い。テニスが大好きだ。それになんてったって――公園の中だぜ!
 こうしてぼくはホームレスでもないのに、公園の住居者になった。じつはその一画に住宅地ができた後、周りが公園指定されて取り残された形になったというわけだ。
 朝、家を出ると、いきなり公園のメタセコイアの並木道というのが嬉しい。
 2、3分歩くと、池を囲んだ巨大な遊水地があって、緑の土手と原っぱは子どもたちの天国、夕方には犬の散歩仲間があちこちで集う。遥かまで視線を送れる空間は目にも心にも快い。しかも春は一面の桜堤になるのだ。いつも光が溢れている。
 東京に出た日の帰り。駅近くに置いたバイクに乗って、家に向かう。大宮公園は夕闇に閉ざされて、訪れた人々がみんな帰ってゆく。それと反対にぼくは人気の絶えた公園の中に走りこんでいく。そのたびになぜか笑いたくなるのだった。
 その後、湾岸さながらのとんでもない戦争に巻きこまれるなどとはつゆ知らないで。
(つづく)
山口タオ(作家/『ショートショート一番地』好評配信中)

編集部ひそひそ話  −最近読んだ本−
 浅田次郎の短編集『鉄道員』を読んだ人は「その中で何が一番面白かった」という問いかけに悩まされるらしい。ここゴールデン街の飲み屋『if』でも例外ではない。ママや常連さんが浅田次郎のファンなのだ。つい先日、私は映画『ラブ・レター』を見て感動し『鉄道員』の文庫本を買ってしまった。ママのとどめの一言「原作がいいよね」が午前3時の、もうどうにでもなれ状態の脳みそにすり込まれてしまったのである。おかげで「俺読んでないから」というような中立国のような返事はできなくなってしまった。やっぱり『ラブ・レター』かな、ママ派に落着きそうである。
 さて、今日はどうしようか、ボトル入れなきゃならないし、でもやっぱり行くんだろうな。中野のキャバクラで中国語を暁藝ちゃんに教えてもらってからね。
渡辺


 図書館で、懐かしい名前が目に付いた。栗本薫。高校生のときよく読んでいた気がする。そこにあったのは『キャバレー』という小説で、16年も前に書かれたものが、最近文庫で再版されたらしい。美少年のサックス奏者とやくざの友情物語。SF・ファンタジー作家というイメージだったのに、それはハードボイルドだった。ジャズにも任侠の世界にも精通しているなんて、なんて知識の幅の広い人だろう。
 これをきっかけに栗本さんの著作リストを調べた。すごい。年間20作以上を出版している。ジャンルもいろいろ。グイン・サーガや魔界水滸伝といったシリーズものが今も続いているようだし、活動も執筆に留まらず、音楽や舞台でも活躍されているという。こういう人を天才というのだろう。
 『キャバレー』は、私のお気に入りの男の子を思い浮かべながら一気に読んでしまった。第2弾も昨年出たようだ。10代の頃に戻ったつもりで、栗本さんの著作を読み返してみようかな。
みらい

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