ネコ、イヌ、トリの3匹を従えた隣家のおばさん。ほとんどモモタローだね。飼っても良いから迷惑をかけないで、と言っているだけなのに、自称動物博愛者からはぼくが冷酷無比のオニに見えるらしい。
「あのトリはうるさすぎる」と言うと、モモタローは、
「カラスだっていっぱい飛んでて、うるさいじゃないの。動物を愛する心を持ちましょう」だって。呆れて、反撃の言葉さえ浮かばなかった。
抗議の手紙を入れると「陰険だ」、不動産屋に相談したら「チクった」ととりつくシマがないばかりか、それに尾鰭をつけて近所に触れ回っているらしい。それまで普通に接していた奥さんたちのぼくを見る目が変わりだした。ああ。
しかしモモタロー軍団に対抗する術は見当たらない。憂鬱が募り、日々に敗色が濃くなっていく。そんな時だった。
忘れもしない1995年、小雨上がりの6月26日。大宮公園でぼくは生まれたばかりの子イヌを拾ったのだ。ダンボール箱の底でもそもそ動く茶色い固まりはまだ目が開かず、モグラみたいだったので、とりあえず――モグ。
イヌ用ミルクを買いに走り、ベッドとトイレを調え、飼育本を読みあさり・・・とするうちにモグは柴犬似のかわいい雑種犬に成長した。そして元気に吠え始めた。大きな声で。そう、隣のおばさんに向かって。
「そのイヌ、なんとかしなさいよ。顔見るたびに吠えて。憎たらしい」
「あれ。動物好きじゃなかったの」
「ちゃんとシツケをしてくださいっ」
「あんたのイヌもぼくが通るたびに吠えるじゃないか」
「あれはわたしがわざと吠えさせてんですっ」
ね。呆れるでしょ。しかし今度はぼくも黙っていなかった。
厚顔の額に走る苦渋のシワは明らかなダメージを物語っている。動物博愛者を名乗る限り、モグを飼うな、と言えない。迷惑、と言えば自分に跳ね返る。自縄自縛とはこのことだ。ぼくは知らないうちに究極の対おばさん兵器を育てていたのだ。
野太い吠え声とともに、ぼくの反撃は始まった。
「あんたさあ。まず自分のシツケをしたらどうなんだ!」
モグはノラネコを家の周りから駆逐して、形勢は逆転した。平和の日が見えた。
あの雨上がりの朝、神様はぼくのもとに救世主を送り届けてくれたのだ。
(つづく)
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