コラム

column 39 「当世書生気質 其の二」
 学生会館という建物がある。サークルに所属する学生たちのための小部屋マンションとでも言おうか。何でも学生紛争の時に建設中で、その時占拠したままなのでまだ完成されていないそうである。大学にあるすべてのサークルが学生会館を使っているのではない。サークルには公認と非公認があって、公認サークルは何だかの組織の一員としてその小部屋(ボックスという)を使うことができるのである。だから古くからあるサークルが多い。戦前・戦後から続くサークルも稀ではない。先日東大の駒場寮が壊されて、学生文化の終焉の象徴とかいわれていたけれども、普通の人はぼろい寮を壊すことがなぜ学生文化の終焉なのか理解できないと思う。学生たちは夜な夜な集い、酒を飲み、ギターを弾き(今でも!)、語る(これも今でも!)のである。場所というのはそういう行為の絶対的な基盤であって、それがカフェテリアみたいな巨大な空間になってしまっては駄目だし、午前一時から明け方にかけてが、語りの舞台なのである。夜八時を回ると学生をキャンパスから追い出す大学もあるそうだが、それでは「非日常」を生産させる場所は生まれないのだ。きっとそういう駒場寮の文化の位相として野田秀樹氏の演劇は生まれただろうし、他にもそういった場所からメジャーになった人はたくさんいる。
 法政の学生会館に話は戻るが、ちょっと汚い。いやかなり汚い。入学したてでウブだった私は最初の一歩を踏み出すのに勇気が要った。そして汚い建物の地下に進み、六畳くらいの広さの部屋に向かう。目的のサークルに入るためだ。途中の狭い廊下には尺八やホルンやバイオリンの練習に勤しむ人たちがいる。ボックスには物知り顔な先輩がいて、私の知らないことを百も千も知っている。自分が先輩になるとそういう知識が殆ど授業に拠っているとわかるのだが、初めは面食らう。まだ世の中を秩序立てて、系統立てて見ることができない私に現象と現象の繋がりを示して(語って)くれる。大仰な言い回しかも知れないが先輩の知識を通して初めて歴史が自分の隣に座るのである。そんな先輩の話が聞きたくて学生会館で朝を迎えては親に怒られた。
 建物自体が老朽化していることも事実だが、学生会館が壊される時は、法政の学生文化も過去の遺物になるのだろう。
(つづく)


淘山竜子(作家/『雨滴の音』好評配信中)

編集部ひそひそ話  −東京のモンパルナス−
 最近、ゴールデン街で飲んでいる。昔は演劇だ何だと盛り上らなくてはという雰囲気があったが、最近はその店の常連さんが恋をしていて現実的な話をすることが多い。Iさんは「だまされたい」とさえ言っている。それは、ほっといて、ここ「if…」では役者が集まってくるのでこういう場面に遭遇する。
 ドリフ好きの役者が大声でママを口説いている。すると近くでラーメン屋を開業した役者さんがどういう訳かおにぎりを持ってやって来る。午前2時である。「もう役者はやらないのか」ドリフ好きの役者がおにぎりを取りながら言う。「やらないよ。子供産まれるし」「そうかよ……」ここでママが「一杯飲んで行きなよ」と助け舟を出す。私たちはカウンターで並んで飲みはじめる。
 外は雨が激しく降出している。
「こりゃ今日は帰れないな。Iさん泊めてよ」
「ダメ。家きたないもん」どこまでも現実的な夜であった。
 東京のモンパルナス。新宿。午前2時30分。

渡辺


 乃木坂によしだ屋珈琲店というおいしいコーヒーの店がある。知り合いの紹介で行ったのだが、ここに来る常連客はすごい。一見、普通のお客なのだが、実は音楽家や作家、イラストレーター、有名なプランナーなど。才能ある方々がふらっときては一服していく場となっているようだ。なぜそんな人達が集まってくるのか。それはマスターご夫婦の人柄にあると思う。マスターの話は面白い。少々抽象的なところもあるが、人を見抜き、その人にあった話を展開してくれる。その洞察力は怖いくらいだ。私もつい将来の夢などを語ってしまい、励まされ、アドバイスをしてもらっている。
 19世紀、フランス・パリのモンパルナスには多くの芸術家が集まった。そういう場所が大なり小なり今でも各地にある。よしだ屋珈琲店も、ひとかどの人達を惹きつける空間を作っている。私も人に負けない何かを持ち、彼等の一員になりたいと思っている。

みらい

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