コラム

column 41 「当世書生気質 其の四」
 都内の某大学の就職課によると、卒業後、就職した職業が自分に合わないという理由で、一年以内に転職(離職を含む)する人が全体の三割にも上っているらしい。同大学では就職後のミスマッチを防ぐために努力を重ねたいという見解を出していた。私も僅かに経験した就職活動の中でこのミスマッチという言葉は何度も聞いた。ミスマッチは企業にとっても学生にとっても非常に不幸なことだからしっかり企業研究をしてください、と人事部の人たちは説明してくれた。
 作家志望の若者がいるとする。彼はいつかは必ず世に出て文章で生計を立て、家族を養っていきたいと思っている。しかし大学を卒業する時点でその芽は出ていないばかりか、種まきさえ終わっていない。両親の目も気になって就職しようと考える。「働きながら原稿を書けばいいや」と、その時点では安易な発想。そして風も柔らかい春の日、町を歩き回って就職活動に精を出す。だが企業を回れば回るほど矛盾を感じるようになる。企業は面接でそのままの貴方が見たいと言ってくる。でも青年は口が裂けても「就職は一時的なもので、四、五年の内に作家としてどうにかやっていく道を模索したい」なんて言えない。四、五年で辞めるつもりの人間が「御社の将来性云々」と言うとき、どうしても腹の底がむず痒く、居ても立ってもいられなくなる。
 もしこの青年が就職をしたら、これこそがミスマッチな就職だろう。私はこのミスマッチを未然に防ぐために就職活動をやめたのだ。だが同時に私には自分の「作家になりたい」という声が就職をどうしてもしたくない言い訳のように聞こえてくるときもあるのだ。私は小さい頃(と言っても中学生くらい)千葉敦子さんのようなジャーナリストになりたかった。でもいつの間にか文芸作品の世界に浸るようになって、事実を伝えるよりも言葉を操ることが好きになった。脳の上半分では、自分のことを夢に向かって挑戦するチョー前向き発想の騎士のように思っているけど、下半分では小さな困難にも逃げ出してしまう弱虫だと思っている。しかも言い訳だけは一人前だ。全国の作家志望の大学四年生はどうやってこの難局を乗りきっているのだろう。就職先の決まった友人たちは「決まったところに行くだけだよ」と漏らす。みんな小さい頃から将来の自分が成功している像を大事に温め過ぎてしまったのだろう、私も含めて。
(つづく)


淘山竜子(作家/『雨滴の音』好評配信中)

編集部ひそひそ話  −無題1−
 児童劇団の脚本を書いていたことがある。今から13年くらい前になるだろうか。『風の童子』という『風の又三郎』をモチーフとした芝居だった。下北沢のタウンホールで上演された時、まだ3歳くらいの娘に自分の芝居を見せられたのがうれしかったのを覚えている。最近、劇団が今だに『風の童子』をメインに上演活動をしていることを知った。ロングランじゃないか。まだ、ギャラもらってないぞ。
 あの頃もよくゴールデン街で飲んでいた。芝居だ何だ、といっては階段から転がり落ちたものである。最近また通うようになった『if…』は役者さんのたまり場のような店だ。一生、芝居のようなものから離れられないような気がする。腹をくくるか。Sさんごめん。

渡辺


 先日、遅い夏休みをとって、バリ島に旅行に行ってきた。テロ事件のあとであったが、向こうではそんな出来事など頭の隅にやってしまうくらい、南国の空気を満喫した。
 そのあと、グアムに行くはずだった友達が、例の事件で中止になったと肩を落としていた。うーん。行き先がちょっと違うだけでこうなってしまうとは。年末年始のグアム旅行の予約数も、例年よりかなり少ないらしい。しかし、旅行会社は揃ってグアムやハワイ旅行の安いツアーを組んでいるという。21世紀最初のクリスマスを、太平洋の上で過ごすのもいいかな、とちょっと思ってしまう。その頃までにこの争いができるだけ平和に終わっていることを祈って・・・。

みらい

戻るBack number



2000-2002 copyright(C) bungeisha co.ltd.
produced by NETWAVE Co. Ltd.