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わたしは脚本家である。
デビューのチャンスはコンクールでつかんだ。
そして、書くことと同じぐらい読むことが好きだ。
そんなわたしがはじめて引き受けた小説コンテストの選考委員。
脚本家の目でドラマを探し、コンクールに挑戦していた頃を思い出してドキドキし、一読者として物語を味わいながら、選考を終えた。
映画やドラマの原作になる小説が必ずしも名作とは限らないし、映像化不可能な名作もある。けれど、「映像で見たい」という思いを抱かせることは、いい小説のバロメーターと言えると思う。読者の想像をかきたて、二次元のページから三次元のイメージを浮かび上がらせるのは、物語の力だ。
月間賞に選ばれた十作品はそれぞれに魅力があり、楽しく読めた。
特に惹かれたのは、『雨男』『正義の味方になるために その1』『ダルマサンガコロンダカラ』の三作品。
『雨男』はひとつひとつの章にドラマがあり、短編集の味わいがあった。お化けや妖怪は、目ではなく心で見るもの。登場する化け物は各章の主人公の心の闇を映し出しており、化け物退治と主人公の抱える問題の克服がリンクしていてお見事。ハッピーエンドではない結末も余韻があって面白い……と思ったら、最後の中学校のシーン。それまでの物語に水を差されたようで、せっかくの余韻が引っ込んでしまった。このシーンを活かすなら、「雨男」メールを馬鹿にしている教室の外が急に暗くなって、雨男の次のターゲットはその町だった……と匂わせたほうが不気味な読後感を残せたかもしれない。作者の山人さんはストーリーの起伏を作るのがうまいので、脚本を書くのも向いていると思う。
『正義の味方になるために その1』は、最も言葉の引力を感じた作品。巧みな比喩は嫉妬を覚えるほど。主人公が世の中を見る視点がチャーミングで、語り口にぐいぐい引き込まれた。この年頃の女の子の微妙な感覚をうまく表現して、大きな事件が起こるわけではないけれど当事者にとっては深刻な問題を抱えた日常の浮き沈みをドラマティックに描き出している。主人公の気持ちに乗っかって読んでいたので、ラストが消化不良に感じた。何度も出てくる「ルミノール」が伏線で活かされるのかと思ったら肩すかしだったが、ルミノール反応のイメージを読後の余韻に残す手はなかっただろうか。タイトルと中身のギャップにも違和感を覚えた。
『ダルマサンガコロンダカラ』は二百ページを越える大作。あらすじを読んで登場人物の多さと複雑さに恐れをなして後回しにしてしまったが、読んでみると、冒頭から夢中になった。「だるまさんがころんだ」に性犯罪と都市伝説をからめ、これだけのストーリーを転がした想像力、想像力に感心。人物もよく描き分けられており、個々のキャラクターをさらに掘り下げればいっそう骨太の物語になりそう。特に少女暴行に加担する女のひがみ感情の描き方には説得力があるが、彼女のエピソードで終わるのは後味が良くない。題材が重いだけに、直前のエピソードと位置を入れ替えるなどラストに救いを持たせられないだろうか。
以上三作品はどれも修正を重ねてさらに面白く化ける可能性を秘めているが、応募時点での完成度ということで、『雨男』を大賞に選んだ。一読者としては三作品とも出版というカタチになってほしいし、映像でも見てみたいと思う。
以下、他の七作品について感じたことを月間賞受賞順に。
『殺意の忘却』
十作品中、唯一の横書きであり、作者は十代。リズム感のある言葉遣いや行間の取り方に「電脳」的な匂いを感じた。スリリングな話だが、どこかで見たような設定と先の読める展開だったのが惜しい。
『天使の声』
ダメっぷり全開な主人公はキャラが立っていて、その自虐的な語り口には引きつける力がある。破滅的な男女たちは一体どこへ向かうのかとハラハラしていたら、うまくおさめて気持ちのいいラストだった。
『豚に真珠』
葛藤と希望の間で揺れるヒロインの心情にはリアリティがあるが、彼女が本当にブスなのか、そう思い込んでいるだけなのか、キャラクターがブレている印象を受けた。ヒロイン像を作りこめば、ハッピーエンドの感動がより強まるだろう。独特の読点の打ち方はリズムを生む狙いかもしれないが、しっくりきていない箇所が多い。
『依斬る』
荒っぽいが勢いを感じる作品。ウンチクが面白かった。発想がユニークで作者の個性がよく出ているが、読者にわかり辛い表現が散見されるのが惜しい。
『卒業文集』
夢と希望にあふれた卒業文集とその後の人生を対比させるのは面白く、人間観察の鋭さも光る。七人を巧みに描き分けているが、職業のかぶりがもったいない。七人が同じ学校の同級生だと誤解して読んでしまうと混乱するので、名前の前に小学校名を入れたほうが親切かもしれない。
『たつとり』
嘘と本当の間を行き来するような不思議な味わいのある作品。奇想天外なエピソードは独創的で面白く読んだが、主人公のキャラクターが強烈な割には読後の印象が薄かった。
『君の物語』
二重構造の外の部分(茶屋)と中の部分(島)のそれぞれに不思議な空気感があり、心地よく迷い込める。情景が目に浮かび、料理はにおいまでこぼれてきそう。テンポ良く読ませる部分ともたつく部分のムラがあるのが残念。
全体的に「もうひと練り、もうひと粘りすれば、もっと面白くなるのに」と思える「惜しい作品」が多かった。作家に必要なのはサービス精神。こうしたら読者が喜ぶのではないか、とページの向こう側に思いを馳せてほしい。つかみはよくできているのにラストがいまひとつという傾向が見られるのは、書き上げた勢いで応募しているせいかもしれない。
客観的な目で読み返していないのではという印象を受けたのは、変換ミスによる誤字脱字が目立ったから。「必死」が「必至」になっていると、緊迫感がそがれるのは必至だし、「リストカット」が「リスカット」、「大概」が「体外」、「保険」が「保健」、「迎える」が「向かえる」になっては意味が変わってくる。変換ミスがあるから即減点とはならないが、せっかく物語に入り込んでいるのに現実に引き戻されては、結果的に評価を下げることになってしまう。
損をしているといえば、タイトルのつけ方とあらすじの書き方。作品を書いて力尽きたのか時間切れなのか、作品に比べてパワー不足のものが多かったが、選考委員が最初に出会う大切なつかみ、本でいえば表紙と帯にあたる部分である。「読みたい!」と選考委員を食いつかせる意気込みで書いたほうがいい。
また、原稿にはノンブル(ページ数)を振っておくことをおすすめする。わたしに限らず、コンクール選考委員のデスクは散らかっている可能性が高い。資料が雪崩を起こした勢いで原稿が散乱する悲劇も予想される。そんなとき、ノンブルがあると便利だ。
最後に。
脚本家をめざす人たちに「どうやったらデビューできるんですか」と聞かれたら、「チャンスはいくらでも転がっている。それをつかむためには、まず手を伸ばすこと」と答えている。作家についても同じことが言えるだろう。今回、《電脳作家大賞》に応募し、月間賞を勝ち取った十作品の作者には、夢を引き寄せる力が十分にあると思う。だから、自信を持って書き続けて欲しい。
いつか皆さんの原作の脚本をわたしが書く日が来るかもしれない。
その再会を楽しみにしています。
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