2002.2.8 吉高 寿男
 時は2010年。
 一つの人気テレビ番組があった。その名は『エキサイティングオペレーション』。
 実際のオペをテレビ中継してしまおうというものである。
 相次ぐ医療ミスで病院に対する信頼は今や殆どないに等しい。病院関係者は頭を悩ませていた。一度なくした信頼を取り戻す為にはどうすればいいのか? そうたやすい事ではない。
 そんな病院の置かれている状況に目を付けたのがテレビ関係者だった。
 「難易度の高い手術を成功させ、その様子をテレビ中継すれば、それを観た視聴者はどう思いますか?」
 この誘いに乗る医者は当然現れた。
 一方、オペをされる患者はどうやって集めたかと言うと……それは医者を捜すよりもっと簡単だった。高い医療費を払えない患者達は山程いる。テレビの出演料をある程度高額にすればすぐに食いついて来た。やがてこの人気番組は誕生した。
 おっといけない! そろそろ始まる時間だ。テレビをつける俺。
 
「……太田ドクター率いる国立がんセンターチーム対、石田幸治さんの肺に宿る悪性のがん腫瘍の一戦です。ここまで太田ドクターは2戦2勝負け無しとまさに過去の医療ミスを忘れさせる大活躍! さあ早くも太田ドクターの額には大粒の汗がにじみ出ています。あっ落ちる! ……いや拭きました。助手の長谷川ドクターの見事な逆シングル。さすがに息が合っています。キャメラは現在パックリと開いた胸部を撮らえています。しかし黒い。石田さんはヘビースモーカーだとは聞いていましたが、噂通りのどす黒さです。テレビの前の良い子は決してまねしないように(画面に『未成年の喫煙は法律で禁止されています』の文字)。ここで別室にいます御家族の様子を見てみましょう。右から奥さん、息子さん、そしてお母様でしょうか、やはり心配そうですね。聞いたところによりますと石田家は先祖代々がん細胞を受け継いでいるとのことで……息子さんの心境はいかがなものか。ではここで一旦コマ〜シャル」
 
俺は今日も見入ってしまっていた。この番組の視聴率は確か先週が28%だったような……いけないもうすぐCMあけだ。
 
「……手術前の太田ドクターのコメントを紹介しておきましょう。『この世にがん細胞がある限り、俺は戦い続ける』実に頼もしいですね。以前は自分自身が病院のがんであったことはみじんも感じさせません。あっとこれは大きい、実に大きい腫瘍です。さあ早くも出るか得意のサイの目切り。太田ドクターの後方では心拍計が一定のリズムで電子音を奏でています。『ピッピッピッ……』間もなく11時です。それではここでもう一度コマ〜シャル」
 
 皆さんも虜になってしまったでしょう。軽快な実況、そして華麗なキャメラワーク。
 しかし、この番組に幾つか問題点がある事も事実だ。一つはクレーム『手術をちゃかしている』とか『映像が過激過ぎる』等。二つ目はスポンサーが付き難い事。食品関係はまず無理だ。
 近々この番組は終了するとの噂を耳にした。あくまでも噂だが……。

「トントン」
 その時、俺のいる病室のドアをノックする音がした。こんな遅い時間に誰だろう?
 俺はテレビを気にしながらも入口の方に顔を向け、声を掛けた。
「どうぞ」
 入って来たのは担当医とセーターを肩に掛けた中年の男。二人はゆっくりと俺に歩み寄り、俺を前にして会話を始めた。
「いいね、こいつで行こう」
 セーターの男は冷めた口調で言った。そして素早く後ろ手に隠していたスプレーを俺の顔に向け噴射した。
 突然の事に俺は抵抗する事もできず、ただ意識が薄れ行くのを待つだけだった。僅かな意識の中で微かに二人の会話が聞こえた。
「このところずっと医者が勝ってるから、最終回は負けさせたいんだよな(笑)」
「大丈夫でしょう、この患者は家族もいませんし……」
「盛り上げる為に架空の家族はこっちで用意するけどね」
「ところで負ける医者の方は用意できてるのですか?」
「それは……君だよ」
「はっ?! またまた冗談を(笑)」 
 
 いつの時代も高視聴率の裏にはヤラセがつきものなのか……ぅぅ(ガクッ)。


第3代 ショートショート大賞 「妻へのプレゼント」 前田  剛力
第2代 ショートショート大賞 「ノーベル賞の憂鬱」 さらし ゆびお
初 代 ショートショート大賞 「手術中継(終)」 吉高 寿男





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