タイという国は映画「王様と私」や「アンナと王様」等で知られるように、昔から積極的にヨーロッパの文明を取り入れ、自国の教育に反映させる王室の姿勢が見られるようなお国柄でもありました。東南アジアの近代史上、唯一ヨーロッパ列強の国々による完全な植民地としての支配をうけなかった国でもありますが、タイの歴史にヨーロッパの列強の国々が現れる以前の時代には、民族や宗教による血なまぐさい権力や領土争いがありました。つまり、日本に勝るとも劣らない興味深い戦国の歴史を持つ国でもあります。日本にも平家の落ち武者だの、源氏の怨念だの、様々な歴史的合戦の場に漂う霊気だの、今でも語り継がれる霊場が存在しますが、ここタイにおいても同様、いわゆる幽霊であるとか、霊媒師であるとか、現代の科学では説明のつかない現象が存在するのです。もしかしたら日本以上にそういった説明難解な不可思議現象が民衆の中で信仰されているのではないでしょうか。
聞いた話ですが、あるときバンコクにある日本人経営の食堂の売り上げ金が毎晩なくなるので、ついに従業員を疑った店のオーナーは、知人に頼み、ある霊媒師を紹介してもらいました。半信半疑の経営者の前で、犯人をつきとめる儀式が行なわれました。詳細は割愛しますが、その儀式の終盤、壁に貼られた白い布が、もこもこと盛り上がり、なにやら人の顔の様なかたちになっていったそうです。よく見ると見覚えのある従業員の顔そっくりのかたち。後日その従業員を追及したところ、実際に、彼が犯人であったそうです。
また、悪霊が人に乗り移ったり、動くはずのない重たい置物が動いたりといった説明不可能な現象が実在し、その現象を地元の人々は「ピー」の仕業といって、お供えをしたり奉ったりしています。街角にもピーの力を信じて、お祈りをしたり願いを掛けに来たりする人が集まる一角があります。願いが叶ってもお礼に来ないと、また不運に見舞われるといった話も聞きます。
私の写真集「トゥクトゥク・タイランド」の表紙に使用している写真は、タイの北部チェンマイのナイト・マーケットという観光客で賑わう場所に面した通りでの、夜のカットです。キャプションにあるようにマーケットの喧噪から少し離れた場所に、「トゥクトゥク」が停まっていました。傍の商店の明かりに照らされた「トゥクトゥク」の前に三脚を構え、30〜60秒露光を数カット、時間にして20分くらいの撮影をしました。帰国し、暗室でこのカットの引き伸ばし作業をしている時でした。暗室ライトの赤い光の下、現像液のなかで浮かび上がってくる印画紙の像を確認していると、無人であるはずの「トゥクトゥク」の窓に男の顔が浮かび上がっているではないですか!ゲゲッ!ひょっとして、写って欲しくないような科学的説明不可能物体?前後の同カットのネガを調べると全てに男の顔が・・・・・!唯一、彼が恨めしそうな顔をしていない事が救いでした。真相は、いまもってわかりません。ですから、無人と思っていた「トゥクトゥク」に実はドライバーが乗っていて、私が三脚を据えてからその場所を立ち去るまで、そのドライバーは至近距離2m程で撮影の一部始終を微動だせずに見守っており、それに私は全く気が付かなかっただけだった、と思う事にしています(でもホントにピーだったらどうしよう)。
つづく
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