俺が「物語書き」になろうと決めた時から精進してきて、やったことのないものにこれから書かなくてはならないエッセイ、コラムがある。自分のことを書くなんてチョットハズカシイ……。
しかし悩んでいても詮無いこと。全5回の連載を依頼されて思いあぐんだ挙げ句、「狼の契約」の制作裏事情でも書くことにしょう。
実は「狼の契約」の中のエピソードはいくつか実体験を元にしている。
そのひとつが「薬物」。
主人公がくすりを飲んで文字通り「飛ぶ」。
これは一時期、渋谷の路上などでおおっぴらに売られ、ぶっ倒れるヤツが増え、最近イリーガルドラッグになってしまった「マジックマッシュルーム」を指している。
29才の時に思うところあってアジアを放浪した。奇しくも釈迦が出家した年齢と同じ。行った先は、香港、中国、チベット(今は中国領だが独立国家だと思っている。早く帰れるといいですね。ダライ・ラマ14世さん)、ネパール、インド、バングラディシュ、タイ。
70年代、ヒッピーたちにラストヘブンと呼ばれたネパールのポカラに滞在した際、知り合った日本人たち5人で「マジックマッシュルーム」を食べようと云うことになった。
乾燥きのこを混ぜたオムレツをひとつ焼いてみんなで分け、湖へ向かった。
ポカラは雄壮なアンナプルナ山を含むヒマラヤ山脈のふもとにあり、水量豊かなペア湖のほとりにある避暑地だ。私たちはボートを借りて人気の無い湖の対岸へ行くことにした。
そこからの眺めは、碧く澄みきった湖に逆さに映った万年冠雪の大ヒマラヤ。この世のものとは思えない光景だった。
きのこを食べてから一時間程して、胃の辺りが熱くなってきた。ジンジンとしびれてくる。それが段々と上がってきて首の辺りで交差する。眉間から頭頂、ぼんのくぼまで線を引いた頭の左側だけがバイブレーションを起こす。左脳だけが麻痺して、言っていることが支離滅裂になり、感情を担う右脳が面白がる。やがて脳全部がガンガンにしびれる。
そして幻覚。ひとによっては、神様を見たり、七色の雨を見たり、別段何も見なかったりする。俺の場合はポップアートを見た。
一緒にいる日本人たちの姿が、顔が、一瞬動きを止めて単純な線だけになって淡色になる。アンディ・ウォーホルのマリリン・モンローのように。ひとが少し動いたと思ったらポップアートになって止まり、次の瞬間そのひとは通常の姿で別の場所に移動している。写実と抽象のミックスジュース。音も水の中で聞いているようにはっきりしない。
やはりみんなも行動が変になり、口げんかをはじめるヤツも出てきて、危ないから帰ろうとボートに乗った。
船上から見る湖と山々の神々しい姿が眩しくてたまらない。瞳孔散大したままだからだ。風景も立体感が無くなって、どこかの博覧会で観た360度全周天映像のようになっていた。
村に着いたころには、もうなんだかわけがわからなくなってしまって、吐いたゲロののど越しが良かったことを覚えているだけで、気が付いたらゲストハウスのベッドの上だった。
あれから24時間経っていた。むちゃくちゃ気分が悪くて、それから2、3日は頭と胃が重くて、瞳孔散大したままでまともに目を開けていられなかった。
俺の症状が一番酷かったらしい。みんなは幻覚も見ずに気分が悪くなっただけと言う。
オムレツをわけた際、俺にだけたくさんきのこが入っていたのか?とも思ったが、まあ症状は時と場合にもよるから、食べてみないとわからないのだそうだ。
断っておくが、俺は後にも先にも、この一回限りしか食べていない。と言うか、もう二度と食べたくない。確かに強烈な体験だったが、その後の気分の悪さがいやだ。食べ過ぎて死ぬヤツもいるのも頷ける。
と言うことで次回も薬物の話「大麻」。
こんな話ばかりでいいのかなあ?
つづく
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