こんにちは、淘山竜子です。
突然ですが皆さんは「文学界」巻末の同人雑誌評という記事をご存知ですか? 大河内昭爾氏や、勝又浩氏、松本徹氏といった文芸評論家の方が、毎月編集部に送られてくる同人雑誌に目を通し、優秀な作品をとりあげコメントする内容です。そこで目立つのは中年期から壮年期の女性の人たちの作品です。同人誌の作り手や書き手の年齢、世代が表記されているわけではないのですが、作品内容から察するにたぶん、40〜50代の人が多いと思います(それに個人的に面識のある人が取り上げられることがあって、そういう人はみな壮年期の女性たちです)。主宰なさっている方も女性が多い。
文学同人誌というと、大学生が深夜までお酒を飲みつつ、明日の大作家を目指して時には喧嘩をしながらつくるものというイメージが強いですが、今、同人誌で小説を書こう、世に発表しようという意気込みは女性のほうが強いようです。同人雑誌評の記事からその雰囲気が伝わってきます。さて、なぜ今この世代の女性たちが元気なのでしょうか?
まず物理的な原因から。30〜60代の男性といったら、何を取り組むのにも最も油ののっている時期。油がのっているというのは女性も同じですが、男性は仕事をしているから小説を書く時間がないんですね。たまに日曜作家という言葉を耳にします。土曜日曜で原稿用紙に向かう。でも、小説ってそんなふうに規則正しくできるものではないですよね。しかも想像力は夜になるほど活発になるわけで、三島由紀夫はサラリーマンを模して決まった時間しか原稿を書かなかったそうですが、それは深夜だったそうです。イメージやテーマが具体化してきたときに一気呵成に文字化する、会社勤めをしていると難しくなることだと思います。それから若い世代の参加が少ないのはなぜか。大学生なら夜と昼が逆転してもへっちゃらなわけで、少々単位を落としても大丈夫です。それに今、大学の文学部は、文筆家養成コースが流行っています。これ、生徒を集めるのにはもってこいみたいですね。学生のうちに小説家として世に出ていれば就職しなくていいですから、それに村上龍さんや島田雅彦さんたちの例を見ても、「学生のうちに」という意欲は高まるみたいです。その世代は男性が今でも多いと思います。しかし如何せん、こういった人たちは懸賞小説にすべてをかけるようです。それもわかります。私も当事者ですから内情には詳しいですが、とにかく同人誌はお金がかかるのです。一冊つくるのに1000円くらいかかります。それが200円でも売れないんですから、台所は大変です。あと、若い世代がいい文章書かないっていう傾向は同人誌だけじゃないでしょうね。懸賞に送られてくる作品でも質は悪いのではないかと思います。文学の担い手の高齢化か、若い世代に取っては活字メディアより映像メディアのほうがピンとくるのか、本当は深刻な問題だと思います。
さて、内面の原因はどうか。内面の問題はそのまま作品テーマになりますが、作品のテーマって、個人的にではなく歴史的社会的に考えた場合、社会や国家のシステムの矛盾やしわ寄せ、負荷がかかる場所に豊かになると思います。天下泰平の江戸時代、特に後期の社会に名作が少ないのはそのせいもあるかもしれません。それに今日本の社会で在日の人たちの文学が注目されるのもその為ではないでしょうか。若い世代にいい書き手がいないのも或いはこの為ではないでしょうか。
翻って中年・壮年期の女性の環境を考えてみると、その世代の女性って要は、「おばちゃん」「おかあさん」です。崩壊したといわれる地域社会や家庭に棲む人々です。中高生の孤独と日々顔を合わせ、旦那の背中から日本の経済を見、ちょうど両親の介護の問題に真っ向から対峙しなければならない人たちです。老いと次の世代(具体的には自分の子ども)への責任、夫婦の危機、あげればテーマはきりがありません。各世代が抱えている問題のいつもすぐ隣にいます。問題に四方八方を塞がれている状態でもあります。そしてそれらの問題を受け止める核として、己の問題もあります。60代でも性愛の葛藤は大きいですし(半世紀前は考えられないかもしれません)、「徒然草」ではないですが満ち潮のように音無く背後から忍び寄る「死」も気になります。
私は日本文学を専攻していますが、半年、大学院に通ってわかったことがあります。それは文学研究と「新しい小説」っていうのは全く別の世界、また同じように文芸批評・評論と「新しい小説」も全く別の次元の問題だということです。いくら過去に世界を揺るがせた作品があって、それらを全部読んで文芸批評の勉強もして、全部それを消化したところで、その書き手の「今の問題」を書かなければ文学作品ではないと思います。奇を衒うだけの新しい創造もおかしいし、セックスばっかり書いていれば小説(「退廃的な現代の若者像」なんて言われたりする)になるなんてのもおかしいです。閉塞の状況を突き抜けてくる書き手側のパワーをどこに認めるか、考えなければならないのです。
そういう意味では、冒頭から指摘しているように、中年・壮年期の女性は宝物をいっぱい持っているように思います。
おわり
淘山竜子さんが中心となった雑誌『孤帆』の第3号が発行されました。大きな出版社から降りてくる情報のみではなく、横に横に広がって新しい創作の可能性を広げたい。『孤帆』はそんな文芸同人誌です。 創刊号から三号まで販売しています(定価500円)。
詳しくはホームページで。 http://home.catv.ne.jp/rr/s-field/index.html
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