コラム

document 39 「Live at Cafe Au-Go-Go」(John Lee Hooker)
NY時代、職場には、弁護士秘書のおばちゃんがいて、自他共に認める元ヒッピーだった。この人は凄くて、11歳でジョーン・バエズとボブ・ディランをコーヒー・ハウスで観た。以来、ジェファーソン・エア・プレインをリンカーン・センターで、アポロ・シアターでフーを、同じフーでもトミー・ツアーの打ち上げのファイナル・コンサートをマジソンで観ている。またフィルモア・イーストには殆ど毎週通ってさ、SFだろうとLAだろうと、西からはるばるやって来たグレイトフル・デッドだろうがジャニス・ジョプリンだろうが、ドアーズだろうが、片っ端からその絶頂期、全盛期を観ていた。

「アタシもコンサートに慣れて来るとさ、西海岸から来た連中はアガッて見えたわよ」

と言うのだ。
アガッたジム・モリソンのステージはいいじゃねえか。歌詞を、緊張のあまり間違えるジャニス・ジョプリンなんて、たまらねえな。今や、批判もできないタブーにすらなっているけれど、事実なんて、そんなもんだよな。こんな人達にとっても、NYという街は征服するかされるか、という恐ろしい聖地だったわけさ。とにかくオッかねえ、特別な街だ。
そこにガキの頃から生まれ育ったおばちゃんが今まで観たステージの中で最高のモノは、プロコル・ハルムだと言ってたな。2万人の人間が、全員ぶっ飛んでたそうだ。無論、あのウッドストックも行ってらぁ。今だってチェーン・スモーカーで、万歳、鶏がらみたいな身体で、声もガラガラ。

「近所のライブ・ハウスでジョーン・バエズを観たわ。アタシが娘の頃は長い黒髪だったのに、今は長いボブの白髪なのよ。時の流れるのは早い。ジェームス・テーラーだって、2年前に観たらおっちゃんだったものね」

そう言って、ガハハハハハハと笑うのである――音楽は、止める必要なんて無い。もし好きなら、石にかじりついても音楽を続けるべきだぜ。誰のためでもなく、自分のために。音楽を志す後進のためにもへこんじゃ駄目だ。80歳で歌っていたジョン・リー・フッカーを想えよ、諸兄姉。この、有名なマンハッタンのカフェで録られた1966年のライブ音源は、賢明な読者には聴かれた方もいるかも知れないが――たとえばイギー・ポップは、こんな攻撃的なブルーズをやりたかったのだ。

「俺は白い。だから、ロックを選んだんだ」

しかし、こう語った本当の意味は、音源の圧倒的な声で理解できる。それ程に暴力的な声である。悪魔的な音が、どの楽器よりも鮮明に耳に突き刺さる。
このセンセイ、70代までは、楽屋にオンナの人が入ってくると、いきなりブチューっと迫ったそうだ。クラクラっとなったら、もう貞操の危機である。そんなぶっ飛んだ部分が確かにあった。俺も死ぬ2年前に2度観たが、あの声の圧力は、どう形容のしようもない――イギーが腐った気も判るわなぁ――そして、おばちゃんにライブ音源の話をしたら、予期せぬ反応があったっけ。

「ああ、『Caf'e au Go Go』?あの頃、BBを観たわ。だけど、もう今は無いわねぇ」

アメリカの懐の深さを知ったのは97年の秋のことだった。ヒヒヒヒヒヒヒ(嬉涙)。

つづく

岡田純良(作家『日刊パンクマガジン』好評配信中)

(01)「Live at Cafe Au-Go-Go」(John Lee Hooker)
(02)「Don't Worry About Me」(Joey Ramone)
(03)「Ultimate Hits Collection」(Ray Charles)
(04)「スキヤキ」(坂本九)
(05)「Sam Cooke with the Soul Stirrers」(Sam Cooke)
(06)「Here's Little Richard」(Little Richard)
(07)「Nuggets: A Classic Collection From the Psychedelic Sixties」(Various Artists)
(08)「Hi Records:The R&B Years」(Various Artists)


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