コラム

document 41 「Ultimate Hits Collection」(Ray Charles)
レイ・チャールズといえば、御大本人よりも、俺は、2000年の大晦日の夜を想い出す。あの晩、俺はシスコにある「Boom Boom Room」にいた。ジョン・リー・フッカーの店だ。向かいのフィルモア・オーディトリアムを横目に見て店に入る――何時も赤を基調としたバーに来ると、赤が基本だと改めて思う。右側には長いバー・カウンターがあり、反対の左側には、壁伝いに長いソファが造り付けてあり、小さな丸テーブルが10個程、等間隔に置いてある。あとは全てダンス・フロア。詰め込めば、立ち見も入れて250人は入るか。ニューヨークの「ブルーノート」よりも、ダンス・フロア分だけ、広い。

タイミングが早かったのか、真っ赤なビロードのカーテンがするすると上がった時には、フロアは立錐の余地も無い状態に膨れ上がっていた。バンドは、The Funk-Freak Allstars。その晩の趣旨はThe Straight Up Funky-Blues & Jam Boogie Masterの夕べってわけさ。バンドはボーカルにDenise Mininfield。サックスがThe Flamingoes、ギターはフランク・ザッパのギター。ドラマーは前Tony-Tone-Toni。Bassistはご当地のスター、Joe Louis Walkerのベース。そしてバンマスがレイ・チャールズのバンドでTrumpetを吹いていた男で――ここまでは――全員が黒人であった。

特にバンマスは50代後半の小柄な老人だが、吹きながら、白目を上目使いに客席を見る。軽薄そうで、トッポイ。右腕でペットを吹きながら、左腕を真上に突き出し、ブレークの手前でさっと左の指を立てる。1本目がハモンド、5本目がギター。そしてバンドは一瞬でサインを読み取り、淀み無くソロ・パートに突入する。全員がこなれた芸人で、一般には無名ながら、確かにその名に恥じぬオールスターズだった。

実はこの晩、一番ぶっ飛んでいたのがHammond B-3。切れのある軽快なフレーズをぶちかますハモンドは、とんでもなくクールだった。背伸びをして素顔を見てみると、年端もいかないような若い白人の小僧じゃねえか。モディリアーニの絵に出てくるような細面で、眼が細く、鼻がすらっと長い。唇の下と顎の間にヤギ髭をたくわえていて、客の黒人全員が自然にステップを踏んで乗っているのに、この男の表情は全然変らねえのだ。

それが切れのあるフレーズでハモンドをギュンと鳴らすんだから、まぁ、観ていると、クゥ〜っと痺れてくるんだね。こういうポジショニングってのは、ある意味では、強烈にセクシーだ。手垂れの老練なバンドマンに交じり、独りだけ若い白人で、優しそうな顔をして、鋭いフレーズを顔色一つ変えずに弾く。こいつぁ、痺れるでげすよ。クール!

考えてみれば、あのレイ・チャールズのバンドで、若くしてオルガンをプレイしていた。レイは自分のピアノだけでは足りないから、オルガンに、小僧を入れたのか。それだけで、モディリアーニ野郎は天才と判る。しかもオールスターズのバンマスなんて、もう芸人の色気がこぼれ落ちていやがる。半世紀間も歌っているレイ・チャールズが育てた芸人は、一体、どのくらいいるのだろう――そして彼らの多くが、この国の音楽シーンを土台から支えている。なんという情熱であろう――俺の身体は感激で痺れたっけ。

11時45分からはお約束の「Sex Machine」。とにかく延々と演る。カウントダウンの間も演る。世紀を超えた瞬間、スコットランド民謡の「蛍の光」になり、一瞬のチーク・タイム。時よ今とばかり、“ブチュッ!”、“プチュ〜ッ!”“ムチュ〜ッ!”。前後、両隣から聞えるキスの嵐。男も女も、人種・性別入り乱れてのバトルロイヤルだ。21世紀最初のライヴは「Sex Machine」。レイ・チャールズが鍛えたバンドマンによって、JBの書いたファンクは人をグイグイ突き上げ、花火が彩るSFの夜空に弾け飛んだのさ。万歳、レイ・チャールズ!

つづく

岡田純良(作家『日刊パンクマガジン』好評配信中)

(01)「Live at Cafe Au-Go-Go」(John Lee Hooker)
(02)「Don't Worry About Me」(Joey Ramone)
(03)「Ultimate Hits Collection」(Ray Charles)
(04)「スキヤキ」(坂本九)
(05)「Sam Cooke with the Soul Stirrers」(Sam Cooke)
(06)「Here's Little Richard」(Little Richard)
(07)「Nuggets: A Classic Collection From the Psychedelic Sixties」(Various Artists)
(08)「Hi Records:The R&B Years」(Various Artists)


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