コラム

document 43 「Sam Cooke with the Soul Stirrers」(Sam Cooke)
1964年、素っ裸でモーテルの自室から飛び出し、背後から3発も撃ち込まれて死んだという最期を考えると、そこには、早すぎた天才という感じが何時も付き纏う。殺した白人女は強姦されそうになったと騒ぎ、結局は正当防衛が成立した。時代かね。それにしてもヒドイ話さ。サム・クックがオンナに不自由した筈がねえじゃねえか。真相は闇に葬られ、いまだに何も判らない。最期にその人の徳が出るというけど、アンマリだ、神よ。

「ゴスペルにしては甘過ぎるよね」
我が女房も料理をしながら俺に話し掛けるじゃないの。
ま、サム・クックはちょっと特別だな。天才とか、別格とか、そんな感じではないなぁ。JBとかジャッキー・ウィルソン辺りと比べるのも、違うんじゃないかと思う。この二人はボクサー上がり。マービン・ゲイとも、全然、違う――
「この人、オトコの人、オンナの人?」
いみじくも娘が俺に聞いた。こんな誉め言葉があろうかねぇ。誰とも比べられない何か絶対的なモノを感じる。オーティス・レディングの、
「サムの声は何を歌っても神が宿っている」
と語った意はこれか。

――ポピュラー歌手時代の「ツイストで踊り明かそう」みたいな曲は俺には明る過ぎる。ゴスペル時代は、若く未熟な部分もあるが、ポピュラー時代に聴けない、強烈なシャウトがあって心が震えるのだ。

――ゴスペル界のスーパー・グループ、ソウル・スターラーズに在籍していた天才は、ポップス界に身を転じた後にも、「You send me」をはじめ、自作曲で大ヒットを連発した。あの独特のサム節、“Wow, wow oh〜”というコブシ回しはスターラーズ名義の「Wonderful」に聴く事ができる。腹の底から力強く歌う声は、アタシどうなっても良いわ、と、めまいを起こすような魔力が宿っている。音の圧力が凄い。腹から魂が迸る声、特に、曲のイントロのサムのしゃくり上げる息遣いが実に生々しい。

それにしても、公民権運動の高まりの中、サム・クックの偉業が注目されなかったのは、あまりにも経歴がエリート過ぎるゆえか。ソウル・スターラーズはゴスペル界の巨人軍のような存在だのに、あっという間に卒業して、ポップス界に去ってしまった。スタイルも顔も、声も、全てが洗練され、十人並みの白人なら必ず圧倒される。だから卑屈な白人に騙されて、金銭的にも随分苦労をした。それでも明るく爽やか。こういう天才は、何時の世でも、人に妬まれるので、長生きはできない宿命なのだ。

50年代半ば――ゴスペル歌手がポップスを歌うのは還俗で、宗教的な裏切りでもあった。エルビス・プレスリーがブルースを歌ったことも、当時、南部では非難されていたほどで、ジャンルを超える事は宗派変えする事でもあったわけだ。ポップスを歌って熱狂的な人気が出てしまい、スターラーズを脱けてポップス歌手に転じたわけだけれど、この人は世間の偏狭なジャンル分けがもどかしかったろう。

――枠を壊してしまう人は、凡人には陰で嘲われ、オンナには裏切られ、親には嫌われ、蔑まれ、そして不運な場合、サム・クックのように殺されるのである。サムは天才ゆえに、一見、軽々と枠を越えたように見えるのだが、そのプレッシャーたるや、凄まじいものがあったはずである。この人も、俺にとっては大切な芸人の一人だ。

つづく

岡田純良(作家『日刊パンクマガジン』好評配信中)

(01)「Live at Cafe Au-Go-Go」(John Lee Hooker)
(02)「Don't Worry About Me」(Joey Ramone)
(03)「Ultimate Hits Collection」(Ray Charles)
(04)「スキヤキ」(坂本九)
(05)「Sam Cooke with the Soul Stirrers」(Sam Cooke)
(06)「Here's Little Richard」(Little Richard)
(07)「Nuggets: A Classic Collection From the Psychedelic Sixties」(Various Artists)
(08)「Hi Records:The R&B Years」(Various Artists)


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