コラム

document 45 「Nuggets: A Classic Collection From the Psychedelic Sixties」
(Various Artists)
月並みだけれど、「Nuggets」。あるいはこの60年代のガレージ・バンドを集めた名盤は、まずは黙って聴くことで、長ったらしいウンチクはジャマなだけかも知れないけれど――とはいえ、この名盤を聴くと、「?(クエスチョン・マーク)&ミステリアンズ」を想い出す。97年の独立記念日に、セントラル・パークで無料サマー・フェスティバルがあり、そこに、この60年代のガレージ・バンドが再結成して出るというので観に行った。俺がガレージ・ロックの暗黒大陸に入り込むきっかけになったバンドでもあったし、興味津々だった――

会場でビールを呑みつつ木陰で一息つくと、かかっている曲が気になる。一度も聴いた事が無い。キンクスの「I gotta move」のコピー(?)とか、怪しげなガレージの連発。しかも「Nuggets」にも入っていないような、ラフで、未消化のロックン・ロールばっかだ。

「これ……一体ナニ?」

俺が陣取ったのは可動式のスタンドで、スタンドの合間にはミキサーのコントロール・ブースがあり、ターン・テーブル2つとCDプレーヤーがブースの下側にある。そこに、青と赤のストライプのシャツを着て、ボーリング・シューズを履いた小柄な男が独り忙しそうに白いダンボールからシングル盤を取り出してはかけているのだった。

早速、お約束通り、ソロなオトコに俺は近寄って行って話を聞いた。

「アナタ、DJなの?」

ロン・ハワードみたいな薄い頭をこちらに向けた。気弱そうな笑顔を絶やさない男だ。

「今日だけだよ、普段はレコード会社に勤めているんだ」

かけようとしているシングルはラベルも見たことの無い赤とか黄色の単色刷で安っぽく、曲も演者も知らないし、作られたのもダラス、ヒューストン等とクレジットが見えた。

「俺が今まで一曲も聞いたことがないのばっかりかけてるね」

そうだね、一応ミステリアンズの前だからさ、男は笑った。

「俺なんかが知る事のできるガレージと言えば精々『Nuggets』から位だからさ」
「そうだよね、今日の選曲は変わってるよね」

言ってることは良く分かるよ、そしてニヤッと俺の顔を見た。

入れ替わり立ち代わり色々なオッサンが現われて、ダンボールの中をチェックしていた。さすがにアメリカ人にとってもあんなカルトな選曲は気になるのだ。数曲、「Back in the U.S.A.」と「Tutti Fruitti」は判ったけれど、残りは殆ど知らないので開演までの一時間半、俺はオノレの無知さ加減に唸った。もっとも、一曲限りで消えた地方のバンドの数多くは、才能と芸が欠如しているからということも改めて感じたが――その中でもミシガン代表、或いはこの類のガレージ・バンドの代表格と言えるのが「?」の筈だった――

結論。ボーカルは長袖にフリルの着いたパンタロンの金色のジャンプ・スーツを着て、ウエスタン・ブーツを履いた気色悪い男で、野郎のアクションとMCがすべてを台無しにしてしまった。バンドは5人編成で全員オリジナル・メンバー。全てメキシコからの移民の子供達だ――ボーカル以外はオレンジの「?」マークを付けて、黒いTシャツを着た、気の良さそうな男達で、背中には「?& Mysterians-Worldユs the best garage rock band」と、いかにも素人くさいロゴが刷られていたけれど――

――ボーカルが――いい加減、中年脂肪がぶよぶよしていて、その脂肪の具合が分かるボディー・コンシャスなスーツ。しかもマーク・ボランみたいな裏声なのだ。

「イエ〜ッ!NYベィ〜〜ブイッ!」

曲間のMCで10回は言う。早口のメキシカン訛りで、中盤には客の間から完全な嘲笑が漏れ始めた――はだけた胸元から胸毛が覗き、「?」マークのテンガロン・ハットを被った黒眼鏡――股間のモッコリも、クネクネしたステップに合わせて上下に揺れてらぁ。

「これ、アイザキシンヤが駅前で50歳になって歌ってるってカンジじゃない!?」

“我が偉大なる女房”が叫んだ。これ以上の正確な比喩はない。もし貴方がガレージ・バンドをお好きでも、彼らのような存在こそ――遠くにありて想うもの、かも知れない。

つづく

岡田純良(作家『日刊パンクマガジン』好評配信中)

(01)「Live at Cafe Au-Go-Go」(John Lee Hooker)
(02)「Don't Worry About Me」(Joey Ramone)
(03)「Ultimate Hits Collection」(Ray Charles)
(04)「スキヤキ」(坂本九)
(05)「Sam Cooke with the Soul Stirrers」(Sam Cooke)
(06)「Here's Little Richard」(Little Richard)
(07)「Nuggets: A Classic Collection From the Psychedelic Sixties」(Various Artists)
(08)「Hi Records:The R&B Years」(Various Artists)


戻るBack number



2000-2003 copyright(C) bungeisha co.ltd.
produced by NETWAVE Co. Ltd.