最初期のエルビス・プレスリーのバックでベースを弾いたBill Blackは、最初のブームが落ち着いてきた59年、同じ市内に57年に設立された新興の「Hi Records」に移籍した。ここから、Bill Blackの放った幾つかのヴォーカル抜きの曲がメンフィスを席巻して、街を3分して競い合う、何れも歴史的なレコード会社によるポップス史が幕を開けるのである。
日本では、一般的にはAl Green、Ann Peebles、O.V. Wrightという3大スターを抱えていたレコード会社として知られているものの、Stax RecordsのBooker T. & The MGユs、The Bar-Kaysのような歌抜きR&Bバンドの根っこにBill Black Comboがいることはあまり知られていない。即ち、デトロイトのJunior Walkerと共にBill Black Combo は世界中のヴォーカル抜きのR&Bバンドや、ブルー・アイド・ソウル・バンドの源流でもある。
もっとも、この会社の面白さは、この点より、サックスのAce Cannon、トランペットのWillie Mitchellなどの、アクの強い専属バックの強烈なスターがおり、Syl Johnson、O.V. Wright、Otis Clay、Don Bryant、Charlie Richたちと素晴らしい演奏を残したことだ。ヒット曲が少ないだけで、数々の名曲は大変な水準である。
先日、サンフランシスコで買った「Hi Records:The R&B Years」を久々に取り出して、初めて通しで聴いてビックリしたからさ。黒人の権利主張運動が、時に暴走した70年代半ばのソウル・ブームとはまるで無縁のところで、こんなにも真面目にやっていたレコード会社があったとは。掛け値無しに素晴らしいぜ。全68曲中、ほぼ半分がイカしたダンス・ナンバーで、これほど高い割合で名曲のある会社は、他にタムラ・モータウンくらいか。
何と言ってもWillie Mitchellという男がソウルに誠実だったのだ。メンフィス野郎にはいまだに泣かされる。Al Greenを売り出したWillie Mitchellは、70年代にハイの社長に昇格して、これまでのプロデューサーから経営者に変わる。「Letユs Stay Together」(R&B、POPチャート共に#1) に代表される、メローで優しいヒット曲を演出したことで有名だ。
だが、60年代半ば以降のWillie Mitchellの仕事もいい。自分で作詞・作曲した曲で、Syl Johnson、O.V. Wright、Otis Clayに歌わせたジャンプな曲、渋いバラードのメロディーライン。アレンジ。何時かどこかで聴いたエッセンスの組み合わせだけれど、それもいい。ソウル好きには泣けるドロ〜リ濃い味がたっぷり。黒人にとってどう聴こえるか知らない。だが、少なくともブルー・アイド・ソウル好きの異人種には応えられない味付けだろう。
メンフィスは田舎で、人の良い男女が本当に多い街さ。何時か男だけで旅に行きたいね。夏場にビール・ストリートを日がな一日ブラブラしたい。美味いソウル・フードを喰って、夜通しでサックス吹き(バンドマンは眼の覚める黄色や紫、緑のシャーク・スキンのスーツ着用)なんかと遊んだりしてさ。周囲には貧困と憎しみが渦巻いているエリアだけれども、あすこは別さ。イカサマ師、ヒモばかりの街だけれど、本当に嫌な野郎は住めない。
ちなみにWillie Mitchellは、今も悪そうで、カッコいい。今年は万歳、御歳75歳になるはずだ。あのメンフィスにも、偉大なソウル・ブラザーが今も健在で演ってるぜ。
おわり
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