前回、ハリウッド製のド派手なSF映画がSFそのものの隆盛につながらないという話をしたので、今回はいかにいい加減なSF映画が多いかという話をします。ちょっと科学的な話題になりますが、全然難しくないのでおつきあいを。
まずは、『フィフス・エレメント』。もっともこの映画は、完全なハリウッド映画とは言えません。監督はフランスの超有名監督リュック・ベッソン。でもハリウッドで作ってるし、役者陣もほとんどハリウッド俳優。フランス・アメリカ合作といったところです。
この映画、学校でちゃんと理科を勉強した人なら、いきなり最初のほうでびっくりしたはず。なんと、「マイナス5000度」なんて言葉が出てくるのであります。温度のことね。摂氏か華氏かは知りませんが、計器の測定値に関する言葉だったので、まあ摂氏と見るのが順当でしょう。
それにしてもなあ、マイナス5000度! 一瞬、唖然としてしまいました。映画館で見たときは字幕の読み間違いかと思いましたが、その後DVDで原語を確認しました。間違いなくそう言ってます。
あのぉ、ベッソンさん、「絶対零度」ってのをご存じないんでしょうか?
ノヴェライズはテリー・ビッスンというバリバリのSF作家だけど、ものすごく困っただろうなあ。読む気にならなかったので手には取らなかったけど。ひょっとしたら摂氏でも華氏でもない、全く新しい単位でも考案してるのか?
ま、この映画の場合はあくまでも計器の不調とも取れる言葉の中で「マイナス5000度」に言及されるので言い訳はできるかもしれませんが、それでもなお、「マイナス5000度を表示できる温度計なんか存在するワケねーだろ」と言われたらおしまいです。
この際ベッソンさんはほっときましょう。あの映画を観たって、だれもSFに興味を持つとは思えませんから。あくまでもド派手なSFXとゴルチェの衣装を楽しむのが本筋。楽しけりゃそれでいいんです。少なくともビジュアル面はとってもオススメ。でなきゃ私もわざわざDVDなんか買ったりしない。
お次はポール・バーホーベン監督の『スターシップ・トゥルーパーズ』。最初にお断りしておきますが、私はこの映画、実は大好きなんです。それでもなお取り上げるのは、屈折した愛情ゆえとご理解ください。
そもそも私がこの映画を好きな理由は、そのこれでもかというほどのいい加減さ。昆虫型エイリアン、バグズと戦うのだけど、その戦いぶりがむちゃくちゃなのであります。
まず、バグズは太陽系から見ると銀河系の反対側に位置するクレンダスという星から地球を攻撃するのだけど、その武器が何と、軌道上に浮遊する小惑星。つまり、岩の塊を銀河系の反対の惑星に向かって発射する。銀河系の直径がいったいどれだけあると思ってるのだろう?
それだけではありません。地球軍の戦艦ロジャー・ヤング号が宇宙を航行中にその小惑星とすれ違うんだけど、ものすごくゆっくりすれ違うのであります。銀河系を横断するのだから、両者とも光速をはるかに超えるスピードに違いない(宇宙船はまだしも、岩の塊が超光速だなんて!)。なのに、手動操縦でかろうじて回避できるほどゆっくりすれ違う。手動操縦でしか障害物を回避できない宇宙船ってのもすごいけどね。しかも、さっさと回避しないで無意味に秒読みなんかしたりする。おかげで×××が×××しちゃったじゃないかっ! 勘弁してくれ。
エイリアンのバグズもすごい。いろんなタイプがいるんだけど、その一つは何と、ケツからプラズマの球をひり出し、しかもそれが宇宙空間まで(少なくとも惑星軌道上まで)飛んでいきます。それから、「腐食性の火炎」などというワケのわからないものを口からはき出すものもいます。科学考証も何もあったものではありません。ボスキャラのバグズに至っては、地球人の頭に管を突き刺して脳みそを吸い取り、地球人の思考を探り出す。私はたとえ猿の脳みそを食べたとしても、猿の思考や感情は理解できないと思うけど。
それでもなお、『フィフス・エレメント』よりはこの映画のほうが許せてしまうのは、やはり贔屓目としか言いようがありません。原作は昔からのSFファンなら誰でも知ってるロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』(ハヤカワ文庫SF)で、ガキのころに読んで熱狂したもんです。SF小説というよりはイデオロギー小説、プロパガンダ小説といったほうがいいのかもしれませんが、バーホーベンはこの原作の過激な思想を逆手にとって、軍事政権に支配された人間社会を徹底的に茶化してみせるのです。だから、わかっててわざとおバカ映画を作ってるんじゃないかと思っちゃうわけ。
ちなみに、原作『宇宙の戦士』に出てくるパワード・スーツは、『機動戦士ガンダム』におけるモビル・スーツの原型になったものとも言われています。映画には出てこないけど。
しかしなあ、それでもやはりハインラインは草葉の陰で怒髪天を突いていると思うぞ。そんなこと言うと、「おまえの小説はどうなんだ?」と言われそうですけどね。すんません。
つづく
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