コラム

document 52 日本SFはどこへ行く?(その1)
かつて、「日本SF」というものが存在した。
1959年暮れ、『SFマガジン』創刊。初代編集長・福島正実は国産SFの隆盛にひとかたならず尽力、新人の育成に努めた。日本におけるSF黄金時代の幕開けである。光瀬龍、小松左京、筒井康隆、眉村卓など、いわゆる「第一世代」の作家が次々にデビューし、SFは次第に普及していく。「SF」という言葉そのものの認知度も高まり、その未来は一見、きわめて明るいかに見えた。
しかし、その舞台裏では編集サイドと創作者との熾烈な戦いが繰り広げられ、「日本SF」は思わぬ方向へ進んでいこうとするのであった……。
いつになくシリアスな口調で始めちゃいましたが、別に大上段に構えた「日本SF論」をぶとうというわけではありませんのでご安心を。ついでに、「熾烈な戦い」というのは冗談。皆さんを驚かせて惹きつけるための大袈裟な表現であります。
しかし、編集者の望む「SF」と作家たちの書きたい「SF」との間に微妙なギャップがあったというのも事実でありまして、そこらあたりから我が国独特の、それこそ「日本SF」としか言いようのないジャンルが誕生してきたというのは間違いのないところなのです。

日本SFの黎明期にいったい何があったのか。それを知るためにはまず、福島正実という人物にスポットを当てる必要があります。この人がSFの発展に果たした功績は非常に大きく、この人なしには日本SFの発展はありえなかったのです。まさに、日本SF界の大恩人。既に故人ですが、お墓にケツ向けて寝られない人がいっぱいいるはずです。
「SF後発国」であった日本では、それこそ明治時代の富国強兵のように、とにかく欧米のSFを吸収して、同じレベルに追いつかなければならなかったのです。福島氏も欧米の先進SF、いかにもSFらしいSFを標榜し、そうした作品を書くことを作家たちに求めました。
しかし、日本には日本人なりの文学の伝統、土壌というものがあります。そうおいそれと欧米人の真似ができるわけではありません。たとえ無理にやったところで、その縮小版みたいな、オリジナルのないものができるだけかもしれません。だったら翻訳作品を読んだほうがよほどマシというもの。実際に作家たちも、福島氏に面と向かって楯突くことはできなかったものの、内心忸怩たるものがあったのです。

では、彼らはいったいどんな作品が書きたかったのでしょう。
これはあくまでも私の想像なのですが、やはり日本人のメンタリティに根ざした、日本人らしい作品が書きたかったに違いありません。伝統的に農耕社会である日本には、狩猟社会を生き抜いてきた欧米人が書くところの、力でもって強引に突破していくようなスタミナぎんぎんのストレートなエンターテインメントはあまり馴染まなかったというところでしょうか。
実際に、どんな作品が書きたかったのか、あるいは書かれたのでしょうか。典型的な例としては、「時代SF」というものがあります。読んで字の如く、SF時代劇。江戸時代などを舞台にしたSF小説です。武士も出てくるし、町人も出てくる。粋でいなせな江戸町風情。切り捨て御免のお侍。そんなものがどうやったらSFになるのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ちゃんとなるのであります。「SF」としか言いようのない作品に。光瀬龍の作品に優れたものがたくさんありますので、実際にお読みになることをお勧めします。

しかし、福島正実は決してこれをよしとはしなかった(らしい)のです。欧米的SFの輸入あるいは翻案・発展を第一に考えていた福島氏は、いわゆる「本格」SF、宇宙を舞台にした冒険ものやタイムトラベルもの、あるいは未来社会を描く社会派的作品を欲したのでしょう。その点で、彼は非常に厳しかったようです。てなワケで、作家たちもしぶしぶ「本格SF」をみようみまねで書くことになる。
もちろん、だからといって、彼らが書かされた「本格SF」が、実際に欧米SFの単なる「縮小版」にとどまっていたわけではありません。欧米作家たちと何ら遜色のない傑作も数多く書かれているのです。
その一方で、やはり作家なら自分なりの作品を思う存分書いてみたいと思うのも無理からぬところ。実際にはずいぶん葛藤があったのではないかと思います。

やがて、そうした作家たちもやっと本当に自分が書きたいものを自由に書ける時代がやってきます。そこには輸入品としてのSF作品にはない、日本人作家ならではのメンタリティと発想が満ち溢れ、「日本SF」として独自の路線を歩むに至ることになるのです。たとえば上記のように時代SFや、光瀬龍に代表される東洋思想をバックボーンとした作品、半村良らの伝奇SF、筒井康隆によるスラップスティック、あるいは眉村卓のような社会派小説あるいは「インサイダーSF」など、バラエティに富んだ、豪華絢爛な様相を見せはじめるのです。
そして、それと並行して、これはもうホントに「日本SF」としか言いようのない、きわめて特異なジャンルの作品が現れはじめます。
人呼んで、「バカSF」。

というところで、紙数が尽きました。続きは次回。

つづく

安西 啓(作家『クリスタライズド』好評配信中)

(01)「受け身」で書いてみました
(02)「SF冬の時代」は終わるか?
(03) マイナス5000度だとぉ?
(04) あえてトレッキーに挑戦する
(05) たまにはコスプレでもしてみるか
(06) 日本SFはどこへ行く?(その1)
(07) 日本SFはどこへ行く?(その2)〜「バカSF」とは何か?
(08) 日本SFはどこへ行く?(その3)−アニメの「功」と「罪」
(09) 日本SFはどこへ行く?(その4)〜SFが目指すべきもの


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