コラム

document 79 クレイジーモンキーず vol.6
 俺は無宗教だ。だからといって信仰心の熱い者を偏見の目で見たりはしない。神様の基準はそれぞれ違う。だから押しつけないで欲しい。新聞勧誘とは訳が違う。

 宗教団体は増え続けている。俺は以前、取材も兼ねて某宗教団体に潜入したことがある。元々は友人からしつこく誘われていた。そこにタイミング良く宗教の話を書いて欲しいとの依頼がきた。俺は自らに取材と言い聞かせ、彼等の集会に踏み込むことにした。
 駅前で待ち合わせ。不思議なモノで、人混みの中でも彼等を見分けることは容易だ。白装束だとか、服装が特殊な訳ではない。にもかかわらず、独特のオーラが出ている。集団では行動できない小動物の出す弱々しいオーラだ。その5、6人の集団に合流すると、小学校の体育館を目指し歩き出す。道の途中、あちこちから同じような集団が集まって来る。体育館が近付くにつれ、その数は増え、列となった。
 ざっと数えて300人はいたと思う。集まった目的は、近々開催されるダンス大会(北朝鮮のマスゲームに近い)の稽古。若い男女を中心としたグループに、リーダー役の30代の男性が数人付く。俺は稽古を隅で座って見学している。俺を誘った奴の狙いは簡単だ。この熱い稽古風景を見ればコイツも入信するだろう。同じ意図で連れてこられた若い奴がぽつぽつと見受けられる。
 休憩時間になると、代わる代わる幹部らしき人物が寄ってくる。彼等に共通して言えることは目が輝いているということだ。この目で口説かれると頷かざるをえないこともわかる気がした。きっと幹部の人間は、本心から信仰し、善意で俺を誘っているのだろう。でないとあんな目はできない。悪気がないだけにたちが悪い。
 時刻が20時を廻ったころ、稽古は終わった。中には涙を見せている女性もいる。なんでもこの大会は地区ごとに採点方式で競うらしく、上位に入ることは名誉なのだ。
 俺は高校の時、応援団で同じ経験をしたことがある。毎日毎日練習し、体育祭で審査される。オール10点満点で優勝した時は皆で抱き合って泣いた。きっとその時も、隅で冷めた目線を送っていた人間がいたに違いない。紅組と宗教、括りが違うだけで、やってることは同じ。もっと言うならこの世は全部同じになる。
 冒頭でも述べたように、それはご自由にどうぞ。ただ、勧めることは違う。まして何度も拒否している者をしつこく誘う行為は悪質だ。

 稽古が終わり、俺は帰路につけると思っていた。しかし甘かった。食事に誘われたのだ。車で送るとも言われた。この親切さがまた恐い。
 ファミレスの席に着くと、俺は両脇を信者に囲まれた。慣れたものだ。携帯で連絡を取る彼等。ひっきりなしに幹部が現れては去っていく。いつも使っている店なのだろうか。口説き文句で印象に残っているのはこれだ!
「弱い者が頼るのが他の宗教。うちは強い者でないと信仰できない」
 彼等は、神頼みだの、神にすがるだの言われるのが一番嫌なのだろう。おそらく一番多い断り文句だったのではないだろうか。

 俺は帰り道、コンビニに寄ると言って途中で降りた。もちろん部屋を知られるのを避けるためだ。
 翌日から、電話での勧誘は更にエスカレートした。深入りした俺にも責任はあるわけだし、逢って直接断ることにした。

 数日後、俺と一人の信者が茶店にいた。
「俺はこの宗教に入って本当に変わった。素晴らしい宗教だよ。絶対に後悔はさせない。だから入ろう! 本当に本当に素晴らしい宗教だよ! 」
 彼は熱い眼差しで俺を口説き落としにかかる。
 俺は言った。
「そんなに良いモノなら、人に教えない方がいいよ」
 だってそうでしょう。本当にスゲェ良いモノなら誰にも教えないよね。

 ここで補足トリビア。エッチの体位は四十八手と言われているけど、本当は四十九手あるって知ってる? もちろん一番気持ち良いから誰にも教えてないってこと。ちなみに俺の四十九手目は一人遊び……ってバカ野郎!彼女に怒られるよ〜。

 前半と違い、少し方向性が変わってきましたが、一番書きたいモノを書けるチャンスはそうはないので、誠に勝手ながら、もう暫くお付き合いください。
 次回は「年寄り」をぶった斬る予定です。

つづく

吉高寿男(作家『軽めの昼食』好評配信中)

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