コラム

document 86 ショートショート創作講座その5 どうやってアイデアをひねり出すか?
 フレドリック・ブラウンが、小説のアイデアをひねり出すのに効果的な方法として、目をつぶってデタラメに辞書を開き、二つの言葉をランダムに選び出して、むりやりそれをくっつけてストーリーを考えてみるという方法を紹介していたのを、昔なにかで読んだ憶えがあります。
 しかし、これは決して目新しい方法ではありません。皆さんもご存じの通り、落語には三題噺というものがあります。三題噺は江戸時代の昔から行われていたということですから、どれだけ落語が洗練されたジャンルか、わかろうというものです。フレドリック・ブラウンの方法のほうが勝っている点があるとすれば、それは言葉の選択に恣意性が働いておらず、ランダムであるというところだけです。逆に三題噺のほうは、言葉を三つにすることによって、「三つ巴」という、いわば捻りやどんでん返しをストーリーに導入することができます。ですから、皆さんが辞書を使ってこの方法を行いたいなら、二つではなく三つ言葉を選び出してむりやりくっつけてみてください。
 この二つの方法に共通する基本的特徴は、「言葉遊び」の要素を持っている、ということです。
 実は私は、日本語というのはあまり言葉遊びが行われにくい言語ではないかと思っています。もちろん、駄洒落やほとんどのオヤジギャグは言葉遊びですが、日常的ではあっても文化的にレベルの低いものと思われていますし、子どもの教育に言葉遊びが正式な形で導入されるということもほとんど聞いたことがありません。しかし、英語ではスクラブルという非常に伝統的な言葉遊びのゲームもありし、文化的にしっかりと根付いています。
 その原因はやはり、文字の量の違いにあるようです。つまり、日本語はひらがな、カタカナ、そして漢字と、膨大な量の文字があり、これらを並べ替えて遊ぶなどということは大変なことになってしまうのに対し、アルファベットはたった26文字しかありません。表音文字と表意文字の違いなどを論じはじめるとキリがないのでやめておきますが、言語感覚が土台からして異なるのだということだけは視野に入れておいたほうがよさそうです。
 これを考えれば、「言葉遊び」というよりもむしろ「文字遊び」といったほうが正しいかもしれません。いずれにせよ、言語感覚を磨くには非常に有効な方法であることは間違いないので、皆さんに提案したいのは、日頃から自分なりの方法で言葉遊びを行い、センスを磨いていただきたい、ということです。
 それがショートショートのアイデアとどんな関係があるのだという疑問がわいてくるかもしれませんが、言語感覚の向上は発想能力の向上の土台であることはほぼ間違いないと私は考えています。何しろ、人間は言語で思考しますから。別に映像感覚でもいいのですが、小説が言語から成り立つことを考えれば、言葉を大切にすることができる人が創作において有利であることは言うまでもないでしょう。
 とは言っても、難しく考える必要はありません。単なる駄洒落でもいいし、アナグラムでもいいし、性格に合うものを楽しみながら頭の中でこねくり回す習慣が身に付けば、アイデアは自然に出てくるようになるでしょう。
 もちろん、即効性は期待できないかもしれません。ひょんな拍子にいろんな言葉遊びを頭の中で自然にやってしまうほど習慣化される必要があるからです。しかし、フレドリック・ブラウンの方法や三題噺のように、比較的簡単に、意外でとんでもないアイデアを思いついてしまうということもたまにはあるでしょう。
 そして大切なのは、やはり異質なものの組み合わせを重視するということです。ランダムに行われる言葉遊びでは、これは偶然に頼るほかはありません。従って、言葉遊びのほとんどは本当に「遊び」でしかなく、それによって得られた結果が小説に使える確率はかなり低くなります。ですから、たとえアイデアを思いついたとしても、たいしたことのないものはどんどん切り捨てていく勇気が必要です。もちろん、メモさえ取っておけば、そこからさらに発想を拡げることも可能でしょうが、いちいちメモを取るなんてやってられませんし、まあ、気楽に構えて、本当に頭の中だけの遊びのつもりでやってみてください。表情に出さない限り、どんなにヘンな言葉遊びをしていても、他人にはわかりゃしませんから。
 実は私は、頭の中で四六時中、非常に単純なタイプの言葉遊びを行っています。というか、意識しなくても自然にやってしまうのです。目についた言葉などに、ついつい、ある加工を施さずにはいられなくなってしまうのです。これで思いついたアイデアを小説にしたこともありますし、SFを書くときには惑星や都市、あるいは登場人物の名前を考え出すのに非常に役立っています。しかし、これだけは企業秘密。ここでは公開できません。だいいち、どなたにも有効な方法であるかどうかは分かりませんし。ま、どうしてもということであれば、なにかおごってくれたあなただけにそっと教えてもいいかなとは思っとります。

つづく

安西 啓(作家『クリスタライズド』好評配信中)

(01) ショートショート創作講座その1 ショートショートとは何か?
(02) ショートショート創作講座その2 「オチ」は「落ち」ではない。
(03) ショートショート創作講座その3 まずは特異なシチュエーションを考えよう
(04) ショートショート創作講座その4 たった数枚でも「物語」は必要
(05) ショートショート創作講座その5 どうやってアイデアをひねり出すか?
(06) ショートショート創作講座その6 日常生活からヒントを拾い出す方法
(07) ショートショート創作講座その7 三つ巴の対決
(08) ショートショート創作講座その8 単純な「笑い」と新鮮な「驚き」


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