コラム

document 89 ショートショート創作講座その8 単純な「笑い」と新鮮な「驚き」
 これまで7回にわたって、基本的な考え方からストーリーの展開方法、さらには発想法にいたるまで、いろいろと論じてきましたが、技術論よりも重要なのはやはり、あなたがショートショートを書くことによって何を目指すのか、ということです。
 極端な場合、それが単なるお金儲けであっても全くかまわない、と私は考えています。芸術の極みを目指すのならいざ知らず、創作そのものを神聖化する必要は全くありません。結果的にいいものが書けるなら、動機はどうでもいい問題です。少なくとも、読者を楽しませてやろうという強い気持ちさえあれば、天賦の才能のあるなしに関わらず、相当のものが書けるはずです。
 しかし、どんなふうに読者を楽しませるかという基本姿勢によって、できあがる作品の質やレベルも自ずと変わってくるでしょう。以下はあくまでも私の個人的な考え方に過ぎませんが、この講座の締めくくりとして、みなさんに最も伝えたかったことを述べておくことにします。
 それは、作品が読者の心にどれだけ長く残るか、ということです。
 面白いギャグやコントを思いつく才能に恵まれた人もいることでしょう。人を大爆笑させることができる人もいることでしょう。それをそのまま文章化すれば、きっと面白いショートショートになるに違いありません。読者にも歓迎されるはずです。しかし、それが繰り返しの鑑賞に堪えられるかどうか、あるいは他の作品も読みたいという読者の欲求につながるかといえば、必ずしもそうは言えないかもしれません。
 結論から申し上げれば、理想的な小説というものは、読む前と後では読者の内面が変化するものだ、と私は考えています。大上段に構えた、文字通りの理想論ですが、しかしあくまでも理想として、頭の片隅にあってほしいのです。
 人生観や思想に変革を促すような、大きなものでなくてもかまいません。しかし、作品から受けた衝撃や感銘が長く残り、ほんの少しでもその人の考え方に影響を及ぼすことができるようなものを目指していただきたいのです。
 たかがショートショートにそこまで求めることはないだろうという意見もあると思いますが、私自身は過去に何度か、創作スタンスに決定的な変化が生じるほどの衝撃をショートショートから受けたことがあります。ほんの数枚の作品でも、それは可能なのです。そういった作品は、たとえ何十年経っても読者の心に残るものです。
 ですから、同じ読者を楽しませるにしても、どうせならその場限りの「笑い」で終わるのではなくて、人々の心に長く残るような「驚き」を目指していただきたいのです。もちろん、そんなものを量産することは無理ですし、考えすぎれば逆効果にもなってしまいかねませんが、いつも心がけていれば、着眼点も自ずと違ってくるでしょう。日常からヒントを得るための感受性も高まるかもしれません。何より、単なるギャグで締めくくられる作品よりも採用されやすいでしょうし、デビューした後も息の長い作家になれるに違いありません。とどのつまりは、同じお金儲けを目指すにしても、作品の質が高いほうがたいていは儲かる、ということです。
 しかし、その場限りの笑いではなく新鮮な驚きを読者に与える作品は、ひょっとしたら、かえって非常にシンプルなものかもしれません。考えつくし、捻りに捻って出てくるアイデアではなく、あなたが心の底から書きたいという思いに突き動かされて、気がついたらできあがっていたものかもしれません。あるいは単純なギャグや駄洒落であっても、作品のテーマによっては非常に新鮮な驚きを読者に与えることができるでしょう。
 つまり、あなたをその作品の執筆へ突き動かしたそもそもの動機が、あるいは作品のテーマが最も重要ということです。あなたの心のなかに、どうしても書かねばならないという必然性、衝動があるかどうか、今一度振り返ってみるのもいいでしょう。それがあれば、技術論なんかは全てぶっ飛んでしまうかもしれません。最初に申し上げたことと矛盾するかもしれませんが、高い創作衝動は本来ならあらゆるものに優先されるものであるはずです。
 少なくとも、自分の能力の限界を極めることを目指すような、高い創作姿勢を常に持っていただきたいのです。この言葉を皆さんにお贈りして、この連載を終わらせていただくことにいたします。では、がんばっていいものを書き続けてください。

おわり

安西 啓(作家『クリスタライズド』好評配信中)

(01) ショートショート創作講座その1 ショートショートとは何か?
(02) ショートショート創作講座その2 「オチ」は「落ち」ではない。
(03) ショートショート創作講座その3 まずは特異なシチュエーションを考えよう
(04) ショートショート創作講座その4 たった数枚でも「物語」は必要
(05) ショートショート創作講座その5 どうやってアイデアをひねり出すか?
(06) ショートショート創作講座その6 日常生活からヒントを拾い出す方法
(07) ショートショート創作講座その7 三つ巴の対決
(08) ショートショート創作講座その8 単純な「笑い」と新鮮な「驚き」


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