コラム

document 93 ゆびは物語る〜シチュエーションについて考える〜
シチュエーション。これは創作をする皆様なら必ず考えなくてはいけないものだと思います。この言葉の意味を調べると シチュエーション (1)状態。事態。状況。局面。場合。場面。(2)境遇。また、特に小説・劇・映画などで、登場人物のおかれている境遇。
これなくして小説でも劇でも成り立たないのであります。
登場人物のおかれている境遇という部分で私に当てはめて考えてみますと、主人公はとっても苦手なエッセイたるものを書いている状況となるわけです。
さてさて、私はショートショート大賞で賞を取り、晴れて殿堂入りとなった身ではございますが、ショートショートよりも短編小説や長編小説を書いているほうが好きだったりするのです。この場合、俗に言うペンネームは違うのですけど……。
で、何を書くにしてもその舞台設定を考える時にそれは読んでもらう人を惹きつけるような土壌がないと決してその場所には踏み込んでもらえないと私は考えています。
例えば、とても悲しい話を考えてみようとします。
「悲しい」で思い浮かぶ言葉……愛する人の別れ。死。挫折。人間としての未熟さ……。
こうしていろんな言葉が浮かんできますけど、私の場合これにいつも時代背景などをからめるようにしています。以上のキーワードから考えたひとつの悲しいシチュエーション。
シーン1
葬儀にやってきた30才くらいの男。葬儀場にいる誰もが、男に頭を下げるが皆よそよそしい。棺に飾られた写真にはまだ5才にもならないあどけない顔の男の子。
その写真を見つめて男は一言、「すまない……」と言って泣き崩れる。それでも回りの人達は冷ややかな表情。葬儀場の外で新聞を読む男が一人。
その新聞記事、「母親と同棲男性から虐待を受けていた男児、死亡」
男はこの子供の本当の父親。しかし父親であっても親権は放棄していた。
こんな所から話を考え始めます。
短編小説や長編小説ならこの様な舞台設定から初めてこの男の再生を描く事も出来ますが、
これがショートショートだとどうしてもオチを考えなくてはならないので、このようなシチュエーションとなると重すぎて決してオチを作れる話ではなくなってしまうのです。
「ニュースの絞り汁」を書いているときも題材にしたいニュースは沢山ありました。
最近あった時事的な話題を拾い上げて、それを皮肉ったようなショートショートにしようというのがコンセプトにあったのですが、現実にはショートショートとして取り上げるには厳しすぎる重いニュースが多かった事も事実です。
「ニュースの絞り汁」はかなりブラックな要素の強いものですが、その素となる時事に苦い味付けをするためにはその話題そのものが苦くてはなりたたないのです。
ですが、最近のニュースはその事件や出来事事態が重くて苦いものが多すぎてそれ自体を題材にすることは出来ませんでした。
事件が、ある意味小説や創作の域を越えてしまっている感があります。
こんな時代だから、やっぱり人は明るい話題を求めているのも事実なんですよね。
それでは違うシチュエーションを考えてみましょう。
シーン1 
沢山の人に囲まれるなか、歩み寄る一人の男。男の視線の先には苦しそうに息を弾ませている女の子。その目にはうっすらと涙のようなものさえ見える。
男はその子の顔を優しく撫でてやる。
「すまない。俺でもどうにも出来なかった」
「ううん、いいの」女の子は何も言わずその目で答えている様だった。
その日の出来事を新聞は一面で報じていた。
「ハルウララ。武でも勝てず」
春はもうすぐそこまで来てますね。花見したいなぁ〜。

つづく
さらしゆびお(作家『ニュースの絞り汁』好評配信中)

(01) ゆびは物語る〜捨て身の言葉の旅立ち〜
(02) ゆびは物語る〜嘘について考えよう〜
(03) ゆびは物語る〜メール文化を考えちゃおう〜
(04) ゆびは物語る〜シチュエーションについて考える〜
(05) ゆびは物語る〜本当はない怖い話〜
(06) ゆびは物語る〜桜の季節に新年度を想うということ〜
(07) ゆびは物語る〜タイトルは取ったもん勝ちだ〜
(08) ゆびは物語る〜表現の自由という迷宮〜
(09) ゆびは物語る(最終話)〜王の帰省〜


戻るBack number



2000-2003 copyright(C) bungeisha co.ltd.
produced by NETWAVE Co. Ltd.