命の伝達は繰り返される 『おくれてきたセミ アブラハムの冒険』 奥田征彦・著
 人間もセミも、あるとき生まれて、一生懸命に生き(その長さは違うけれども)、やがて年老いて死んでいくのは同じ……。今回紹介する『おくれてきたセミ アブラハムの冒険』には、社会奉仕に携わってきた著者・奥田征彦さんのそんな思いが詰まっています。
 2001年の夏、尼崎で幼児が虐待の末に命を奪われた事件……。被害者のAちゃんと交流のあった奥田さんはこの事件に強いショックを受け、Aちゃんに捧げる物語を作りたいと願いました。そのとき生まれたのが『おくれてきたセミ アブラハムの冒険』です。この物語はセミの果敢な冒険を描いただけに留まりません。生きることの意味、友人や仲間の大切さ、輪廻転生の概念など、さまざまな哲学的要素が分かりやすい言葉に置き換えられています。若き者はやがて老い、新しい命に“生”を託していく……。そんな命の伝達が、この物語の中心にあります。
 小学生でも分かるやさしい文体。そして大人が読んでも胸に迫るテーマ性。夏休みに親子で一緒に読んで欲しい作品です。物語に彩りを添えるイラストもたくさん入っています。沖縄の空を自由に飛びまわるセミの姿には、かわいらしさとともに力強く生きる心が描かれています。命の尊さ、生きることの大切を教えてくれる一冊を、ぜひ手にとってみてください。
gate-03/児童書・絵本 『おくれてきたセミ アブラハムの冒険』 奥田征彦・著
 8月31日の朝、一匹のアブラゼミが地上に出ました。土の中で暮らしていたときとはまるで違い、空には明るい太陽が輝いています。やわらかい羽根も、朝日に照らされてピーンと伸びてきました。そこにヨタヨタ飛んできたのはクマゼミのおじいさん。クマ爺は、成虫になったばかりの男の子をアブラハムと名付けました。そしてこんなことを言うのです。「おそかったねえ。暑かった夏も、もうおしまいさ」──クマ爺は「もうアブラゼミの仲間は死んでしまったんだよ」と厳しい現実をアブラハムに教えたのです。
 それでもどうしても仲間に会いたいアブラハムは、たちばな公園を飛び立ち、力強く羽ばたきました。ビルを越え、家を越え、夕方になってようやく大きな水面をたたえた昆陽池公園に辿り着きました。そこでは「カナカナカナ」と数匹のひぐらしが夏の終わりを悲しむような声で鳴いていました。アブラハムもそこに加わってみましたが、出てくる音は「ジイジイジイー ミーンミンミンミイー」と全然違い、仲間に入れてもらえませんでした。
 その後もカブトムシ、クワガタ、カナブンたちと出会いましたが、アブラハムは蜜を一緒に吸わせてもらえず、クワガタには鋭い角を向けられるばかり……。しかしそこでカブトムシのダイリキが救いの手をさしのべてくれたのです。蜜でお腹がいっぱいになったアブラハムは、ダイリキから“仲間に会えるかもしれない方角”を教えてもらいました。とにかく南へ……。
 そしてアブラハムは「沖縄」という地名を白鳥に知らされたのです。でもアブラハムの羽根では遠距離飛行はとても無理。そこでアブラハムがとった奇想天外な行動とは……。夏の終わりに生まれたアブラゼミが仲間を求めて沖縄に旅立つ、果敢な冒険物語!
夏休みに入った小学生のみなさんへ
この作品を読むと、日本で一番小さいイワサキクサゼミから、「ウィーン、グェーン」と合唱するオキナワヒメハルゼミまで、沖縄に生息するセミの種類もたくさん知ることができますよ。
 



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