人生を映す画集 〜描き続けた男の足跡〜
 ひと昔前なら、飛行機で海外旅行となれば一大行事でしたが、現在はハワイも韓国もジャンボジェットで「ちょっとそこまで」感覚。気軽な空の旅は、日常生活の中にすっかり溶け込んでいます。国民の足として広く社会に浸透している飛行機ですが、利用する側の飛行機に関する知識や理解度が同じ歩調で進んでいるかとなると、そこにはクエスチョンも……。そんなギャップを胸に抱いていたベテランパイロットが『飛行機ノススメ』(東京写楽・著)を世に飛び立たせました。ボーイング747型式機の機長として総飛行15,000時間を超える著者が語る、飛行機の素顔とその魅力──。飛行機に関する素朴な疑問に答えながら、パイロットの仕事や、旅の裏技まで教える雑学エッセイです。飛行機大好きなあなたが読んでも、エアポケットが苦手なあの人が読んでもためになる、上手な飛行機活用法がここに!

gate-14/写真集・画集 「目で味る楽画集」伊藤公夫・著

 大型旅客機の運航に関する知識不足や、航空料金システムの認識不足から、飛行機を充分に活用できず、貴重な時間や大切なお金を無駄にしている人たちも少なくない。本書には「誰もがもっと上手に飛行機を活用できるように」という著者の願いが込められている。
 飛行機に話を絞る前に、まずは飛行機と新幹線の利用比率に目を向けてみよう。東京─大阪間では30:70、東京─岡山間では34:66、東京─広島間では51:49となり、この距離で両者の比率が半々になる。比較的近い地域間では新幹線が好まれ、所要時間に約3時間の開きが出始めるあたりで、飛行機が選ばれる傾向にあることがわかる。自分はどれくらいの距離が判断基準になっているかを考えながら読み進めてみるのも面白いだろう。
 ここからは飛行機を選んだという前提で話を進めていこう。飛行機に搭乗した後は、離陸が待っているわけだが、滑走路の選択には、その日の気温、空気密度、特に風向きを考慮に入れる必要があるそうだ。さらに上空では偏西風が大きく作用する。偏西風は時として時速300kmを超えることもあり、その空気流は旅客機の水平飛行速度にも多大な影響を及ぼす。東京から福岡へ飛ぶ場合を例に挙げれば、偏西風を正面から受ける「行き」と、逆に追い風になる「帰り」では飛行時間に25分もの差が生じるという。いかに風の力が大きいかを実感できる。そのほか飛行機の定時運航を大きく妨げる自然現象の一つには、風と対照的な気象現象として濃霧がある。空を快適に旅するには、さまざまな自然現象と上手につき合う必要があるのだ。
 飛行機の魅力として真っ先に浮かぶのは、客室の窓から眺める風景──どれも地上では味わうことのできない眺望だ。では操縦室の窓からパイロットはどのような景色を見ているのだろう。壮大なパノラマを優雅に……と想像してしまうが、一概にそうとは言えないようだ。離陸時には、滑走路の中心線維持とエンジン計器確認に全神経を注ぎ、前輪が浮揚した瞬間から、その視線は航法計器類に釘付けとなる。窓の向こうの景観に浸る余裕などパイロットにはないのである。空を飛んでいる間は、旅客の命を預かっているのだから、正確な運航に務め、人々を安全に目的地まで運ぶ使命を担うパイロットが一息ついてなどいられないのは尤もな話だ。
 そんなパイロットにとって最たる仕事とは何なのだろう。それは「資格維持」である。自動車免許などは一度取得してしまえば、重大な違反を犯さないかぎり生涯有効だが、パイロットライセンスに関しては恒久的なものがほとんどないのだ。その種類は大きく分けて「身体検査に関するもの」と「飛行機の操縦に関するもの」に分類されるが、それぞれの免許に有効期限があり、またその期間が短いのが大きな特徴である。身体検査証の有効期間は半年間。パイロットとして現役で飛び続けるためには、毎年2回、厳しい身体検査に合格しなければならず、日々の鍛錬や節制を怠れない仕組みになっている。資格を取るのも大変、維持するのも大変というパイロットの世界は、やはり厳しい。
 操縦する側だけでなく、乗る側にも目を向けてみよう。最近は旅行にペットを同伴したいという人も増えているようだ。飼い主が愛犬と飛行機で旅をしたいと思った時、客室に乗せることは可能なのだろうか。その回答はNOである。いくら大切な犬でも客室で一緒に空の旅……は無理なのだが、貨物室に乗せることは可能らしい。ただし海外旅行となると「動物検疫」の問題が出てくるので、まだまだペット同伴旅行のハードルは高い。
 本書には、まだまだ知られていない飛行機の魅力と楽しみがたくさん詰まっているが、著者はまずその根底には「安全」があるべきだと考えている。スピードや快適性も大切だが、安全な運航があって初めて、空の旅を優雅に楽しむことができるのである。それを支える多くの人々の努力が日々続いていることを心に留めておきたい。



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