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| 幼き日々に、誰もが一度は“童謡”や“唱歌”を口ずさんだことがあるだろう。著者も童話・唱歌に親しんできたが、我が子に歌い聞かせることはあっても、それ自体に特別な感情を持つことはなかったそうである。しかし還暦を迎え、夫人を伴って信州の豊田村(現・中野市)にある高野辰之の生家を訪れたとき、何かが心の中で変化した。そこで目にした唱歌「故郷」碑を前に「兎追ひし……」と唄ってみると、万感胸に迫り、目頭が熱くなったのだ。以来、歌碑巡りがライフワークとなり、北は北海道の知床から、南は九州の人吉まで足を運ぶように……。いつしか15年の歳月が流れ、今日に至る。 |
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本書は著者が日本中を探し歩いた「名曲歌碑」のガイドブックであり、時代別・都道府県別に全国の歌碑が紹介されている。その根底には「歌碑に光を当てたい」という強い想いがある。各所に点在する歌碑の在りかを訪ね、名曲を再発見することで、文化的価値のある日本の童話・唱歌・叙情歌を次世代に引き継ぎたい……そんな願いが込められているのだ。
実際に巡ってみると、名曲と呼ばれる歌のほとんどに歌碑が存在したそうだ。「夕焼け小焼け」碑に至っては、著者が知るだけで、全国に18基も建てられていた。それぞれの場所で人々に親しまれ、歌い継がれてきた証である。
建立のいきさつを調べると、その多くは作詞者・作曲者の没後、追慕する人たちの手によって建てられていた。和歌や俳句などの文学碑同様に「日本人の情操豊かな国民性を表しているようだ」と著者は述べている。建立場所は、やはり作詞者や作曲者の出身地、母校など、何らかのゆかりがある土地だったそうだ。自然石に刻んだもの、銅版に彫ったもの──目立たない歌碑から豪華な歌碑まで、さまざまだったことは頷ける。そんな多種多様な歌碑を、どうやって50に絞ったのか──。ここで著者の選考基準を紹介しよう。 |
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選ぶ対象は歌碑そのものではなく、歌である──つまり50曲。 |
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童謡・唱歌・叙情歌に分類されるもの。 |
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後世に残したい歌、その時代に特に意味を持った歌。 |
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当然であるが、歌碑が存在すること。 |
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そこに「私の好みに合う歌」という大事な要素が加えられ、50の名曲歌碑が選ばれた。時代別では明治・大正・昭和に大別され、都道府県別では実に302基の歌碑が紹介されている。『荒城の月』碑(大分県竹田市)、『故郷』碑(長野県中野市 旧永田小学校校庭)、『七つの子』碑(茨城県北茨木市 精華小学校)、『赤とんぼ』碑(兵庫県龍野市 龍野公園入口)、『椰子の実』碑(愛知県田原市 伊良湖岬)、『城ヶ島の雨』碑(神奈川県三浦市)、『かあさんの歌』碑(長野県信州新町 奈津女公園)などなど。歌碑の数は信州がダントツで、次に東京だそうである。
名曲の歴史をつなぐ歌碑の存在に改めて感謝したい──。そんな気持ちを芽生えさせてくれる本である。その一方で、著者のこんなひとことが印象に残る。「残念なことに、歌碑を訪れて思うのは、建碑されるまでは賑やかであるが、碑が建ってしまうと次第に忘れ去られてゆくことである」──もし多くの歌碑が姿を消してしまったら、情趣を味わう我々の楽しみも潰えてしまう……。名曲歌碑を保護し、後世に伝えていくこともまた現在の日本人の使命といえるだろう。 |
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